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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
7日目 花嫁と4人の小姑
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 ……ん? どうしてサランがそういう趣向を持っていなくて、俺は安心したんだ?


 自分でもよく分からなくて首を捻ってみる。

 人の趣味に首を突っ込むほど、俺は無神経じゃないと自分でも思っているが……。

 騒ぎも一段落付き、姉妹たちもそれぞれ、自分の席に戻ったりクリップボードをしまったりしている中、ずっと立ちぼうけだったサランが思い出したように、手に持っていた袋を再度、俺の方に差し出してきた。

「あのー……アーク様、それで、このネックレスはどうなさるのですか?」

「……え?」

 サランはシールが貼られていた袋の口を開け、紙袋の両側を膨らませて俺に中身が見えるようにしてきた。

 袋の中には綿が敷き詰められ、その真っ白なふわふわに埋もれるように、銀鎖のネックレスが微かな輝きを放っていた。ネックレスの考案はユイが出したのだろうか、思ったよりもシンプルな作りで、楕円形の銀のプレートには細かい字で何かが彫られていた。リンリンが言っていたように、姉妹とジジイの名がそこに刻まれているんだろう。清楚な雰囲気のする、落ち着いた、控えめな輝きを、放っていた。

ふと、目を上げると袋を差し出すサランと視線がぶつかった。

 なぜか一瞬、サランのすんなりした首もとにこのネックレスが掛かった姿が脳裏をかすめた。シンプルなネックレスは、サランの白い肌にとても似合っている。

 だが、そんな幻は一瞬で消え去り、現実世界では不安げな表情のサランがじっと、俺を見つめていた。


 一度、背後を振り返る。

 好奇心に満ちた眼差しでこっちを見てくる四人の姉弟子たち。まだ地方紙に顔を埋めたままのじいさん。

 体の向きを前に直す。

 どうすべきなのか、戸惑いが顔に表れているサラン。

 その、困ったように上目遣いになっている眼差しを見ていると……どうしてか、ほっと胸の内が暖かくなった。

 ……そうか。俺とサランってどこか似ているんだった。

 俺の手は迷わず動いた。

 サランの手から紙袋を受け取り、口がぱっくり開いたままの袋を閉じ、きちんと封も戻す。

 その袋を、再び前に押し出した。今し方袋を手放したばかりの、その手へ。

「……このネックレスは、サランにあげるよ」

 誰よりも優しくて、苦労人なサランに。

 ぽかんと口を開いて驚愕の眼差しで見つめ返してくれるサランに、強ばった笑みを返す。

「よかったらサラン、俺と一緒に行こう。君なら……うまくやってけそうだ」

 そう、精一杯のスマイルで俺は言った。




 その直後。いくつかのことが同時に起きた。

 俺の背後でビリッと新聞がまっぷたつに引き裂かれる音。机が勢いよく叩かれる音。サランは手の中に戻ってきたネックレスの袋をぼとりと床に落とし、俺の背後にいたテディは容赦ない平手を俺の背中に打ち込み、誰かさんは愛用のクリップボードを取り出しエトセトラエトセトラ。

 一番早く言葉を発したのは、やはりと言うべきか、リンリン姉様だった。

 リンリンはイスを蹴って立ち上がるなり、天をもつんざくような声を上げた。

「うわーお! マジで!? マジでサランを選んだわけ!? うっひょー! やるじゃん、シャイボーイ!」

 その歓声を皮切りに、他の姉妹たちもざわざわと声を上げる。

「まあ……アーク殿の目は確かなのですね。よかったですわね、サラン」

「ふむ……人は自分と真反対の人物に惹かれると言いますが、この場合はいわゆる似たもの夫婦になりそうですね」

「やほーい! そうか、やっぱ公子様は清楚系女子が好みか! そうかそうか!」

 シャリーは拍手しながら、ユイは記述しながら、テディは俺の背中を引っぱたきながら、それぞれ仰せになった。手に真っ二つに裁断された地方紙を持っていたじいさんも、相変わらず不機嫌そうなツリ目で俺をにらみつつ、ケッと悪態を付いた。

「ふん、サランが断れん子だと知って貴様、求婚するのか……この見下げ果てた野獣め」

「野獣って……誰を選んでもいいって言ったのはじいさんだろ」

 そろそろ背中が痛いのでテディを制しつつ、ジジイに抗議するがジジイは俺の反論も何のその、ぼけーっと魂を飛ばしているサランの手を取って、枯れた両手でその手を撫でた。

「おお、かわいそうにサラン。ケダモノに求婚されて絶望しきっとるわい」

「いいがかりはよせ、じいさん」

 いつもの調子で言い返してサランの手からジジイの骨張った手をぺいっとはね除けたのだが……。


 そこではたと気付いた。

 俺、まだサランから返事を聞いてないし。

 つーかサランはフリーズしてるし。大切なネックレスの袋を落としたのにも気付いてないし。

 しかも、決して恥じらいのために硬直してるんじゃないみたいだし。だって、顔は赤く染まるどころか青白くなってるぞ。こうして見ると……確かに絶望しきってるようにも……見えなくもないけど……。

 いやいや、やはりここは本人の口から聞かねば!

「……おーい、サラン?」

 肩に手を置いて、目の前で軽く右手を振ってみるが、サランはしばらく無反応で……数秒後、はっと息をのんで覚醒した。

「え……あ、え……えっと、その……」

「ああ」

「……う……あの、本気……ですか……?」

 唇が震えていて、呂律も怪しい。「嘘ですよね? 嘘と言ってくださいますよね?」と目が訴えていた。けど……俺だって冗談で求婚するわけないし。

「ああ、本気だ。サランとなら楽しく過ごせそうだと思って」

「……じ、冗談は止めてください! 嘘でしょう、そうなんでしょう!?」

 なぜか問うてる俺の方が逆に問いつめられてしまった。しかもサランの様子は尋常ではなく、俺に掴みかからんばかりの勢いで「なーんちゃって」の言葉を求めている。

 ……そりゃ、サランの気持ちも分かるよ。でも……結構勇気を振り絞ったプロポーズを「ドッキリ!」で済ましてほしいって言われたらさすがに凹むよ……。

 妹の暴走を見かねてか、お祝いモードを切り替えて姉たちもサランに駆け寄る。

「サラン、どうしたのですか。こんなに取り乱してあなたらしくもない」

 さっとシャリーが俺の前に立ち、空中で何かを掴みかかろうとしていたサランの手を優しく引き留めた。さすが長女、その動きに無駄はない。

「光栄に思いなさいな。アーク殿はあなたを選んでくれたのですよ」

「そ、そ、そう、ですが……」

「あたしたちだって鼻が高いのよー?」

 リンリンも、小刻みに震える妹の背中からぎゅっと抱きしめてきた。あのでっかい胸を押しつけているはずなのに、なぜか今はちっとも卑猥な感じがしなかった。

「優秀な妹が引き抜かれるのは悔しいけど、私たちよりずっとシャイボーイに気に入られたってことじゃない?」

「そ、んな……!」

 ぶんぶんと首を横に振り、姉の言葉をも否定するサラン。

「私……私、アーク様と結婚なんて……できません!」


 そう、泣き叫ぶような声で宣言した。

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