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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
7日目 花嫁と4人の小姑
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 頭が痛い。胸の奥がぐちゃぐちゃする。

 そんな状態で、俺は目を覚ました。お世辞にも良好とは言えない健康状態のまま、俺は体を起こして窓の外を見やった。既に日は昇っていて、中庭にもテディの姿が見あたらない。もう朝の特訓を終えて中に入っているんだろう。

 誰かがきちんとコテを掛けてくれたらしい、ぴんと張られた自分のシャツに腕を通しながら、俺は昨夜のことを思い返していた。

 姉に申し立てするから、と言って部屋を出て行ったサラン。彼女の言い分にも一理あると言って、彼女に全てを任せた俺。

 確かに、七日間で結婚相手を決めろっていう無理難題を理不尽だと、思っている。それに、サラン自身が言い出したことなんだし、俺には非がないってことも理解している。

 だが、言うなら丸投げしたんだ。結婚相手を見つけるなんてとんでもない。あわよくば、サランの助力でここから逃げ出したいと。今まで俺に何かと尽くしてくれた五人姉妹を裏切って。

 自分が情けない。あの時は、少しでも楽をしたいと思ってしまった自分がふがいなかった。

 ……今日、何て顔していけばいいんだろう。

 考えがまとまらない。悪い方向にばかり考えてしまう。

 とにかく、下に降りなければ。それで、まずは何であろうとサランに謝る。作戦成功失敗にかかわらず、きっと下で他の姉妹と一緒に待っているだろうから。

 と、思ったんだが。


「あっ、おはよー、シャイボーイ」

 キッチンに入った俺を、いつもと変わらない元気なリンリンの声が出迎えてくれた。

 そして、鼻を突くような強烈な異臭も。

 ……ああ、そうだ。一巡して、今日の飯当番はシャリーになったんだっけ。竈に向かうシャリーは豊かな銀髪をポニーテールにくくり上げて、火にかけられた鍋をせわしなくかき混ぜている。この異臭はその鍋から放たれているし、しかも立ち上がる湯気は心なしか紫っぽい色をしているような……。

 ユイはそんな姉の背後に立ち、彼女があくせくと料理する姿を逐一クリップボードに書き込んでいた。もうもうと吹き上げる湯気にも、何か体温計らしきものを突っ込んで、それに示された数値を測定しているみたいだ。本当に、こいつの知的好奇心は留まるところを知らないな。

 リンリンはなまめかしく脚を組み、美容雑誌らしきものを眺めている。フォード公国はあんまり豊かな国じゃないけど、隣国には商業都市もあって、そういうところでは高級な化粧品や衣服も売っている。中には通信販売形式取っているものもあって、そういう企業はここフォードでも人気なんだ。

 テディは怪しげな湯気も何のその、両手にナイフとフォークを持って姉の料理をまだかまだかと待ちわびていた。あの鍋の中身が楽しみで仕方ないんだろう、時折舌なめずりして至福の表情で今日の朝餉を待機していた。

 で、俺の隣ではじいさんがむっつりと地方紙を広げていた。毎日刊行されるフォードの朝刊。気になる記事でもあったのか、昨夜のことは水に流すことにしたのか、隣の席に着いた俺に目線すら寄越さず、じっと紙面のコラムを目で追っていた。

 ……あれ? 一人足りない?


「……なあ、リンリン。サランはいないのか?」

 まず、昨夜彼女と話したことは確実だろう、リンリンに聞いてみた。リンリンは雑誌に手を挟んで閉じ、意外そうに目を丸くした。

「あれ? ……あ、そうか。シャイボーイは知らないか」

「何を」

「サランはね、今朝早くにお使いに行ってもらったのよ」

「……おつかい?」

「そう。今日、あんたが選ぶ花嫁に贈る用のネックレス」

 まさに今俺を最大限に悩ませている「それ」を話題に出し、リンリンは空席になっているサランのイスを見やった。

「ちょっと遠くの街に腕のいい宝石職人がいてねぇ。花嫁用のネックレスを注文していたのよ。銀のプレートに私たち姉妹と師匠の名前が刻まれた、特注品を。本当は昨日のうちに取りに行くべきだったんだけど、すっかり忘れてて。昨夜思い出したのよ。でも、そのお店は開店も閉店も早くって。もう閉まってる時間帯だったのよ」

「……それで?」 嫌な予感しかしないが、話を促す。

「うん。昨夜、ちょーどいいタイミングでサランが私の部屋に来てね。なんか思い悩んでいる雰囲気だったけど、私がこのことを話題にしたらノってきちゃって。私が姉様の代わりに行きます! って言ってくれたのよ。本当に優しい子だわぁ」

「……」

「でね、馬で駆けても往復で数刻かかるし。行くなら日が昇る前にうちを出て朝に帰ってくるくらいかなぁ、って話になったのよ。で、サランが行くことになったなら夜はすぐ寝てもらわないといけないし、昨夜はさっさと休ませて今朝テディの特訓より早い時間に出発していったわ」

 ……何だって?

「え、じゃあ、その……サランが思い悩んでたってのは?」「そうね、何だか言いたげだったけど翌日のこともあったし、今日の朝聞くってことですぐに部屋に帰させたわ」

 ……やられた。まさか、却下以前に話すらできていなかったとは。

 リンリンは平然とした顔で言ってのけるんだが、何だか俺には悪意があるような気がしてならない。にやりと、俺に向かって意味ありげな笑みを浮かべてきているし、周りの姉妹も素知らぬ顔。じいさんに任せればひとっ飛びのはずなのに、ジジイも新聞にかじりついたまま無反応。


 ……なんだろう、この盛大にはめられた感は。俺とサラン以外が一丸となって俺の計画を踏みにじっているかのような、そんな感じがした。

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