16
暗闇の中、じっと見つめ合う俺と、サラン。
あ、決してやましい意味ではないぞ。これから何か卑猥なことが起こるんじゃないかと期待した人。怒らないから正直に手を挙げましょうね。
「……いや、でもサランにそんなこと」
「いいえ、私もずっと思っていたのです」
決然とした表情で頭を振るサラン。
「すぐに姉様に言います。どんな理由があったにしろ、たった七日で結婚相手を決めるなんて酷すぎます。考えを改めるように、アーク様のお気持ちも汲むように。そうすべきです」
「え、すぐに?」
「はい。師匠はもうお休みでしょうが、姉様はまだ起きてらっしゃるはずです。テディ姉様は夜も早いのですが、今の時間帯ならまだ自室で腹筋背筋腕立て重量上げをなさってる頃でしょうから」
「……あ、そうなの」
「……それで。アーク様はいかがなのですか」
居住まいを正し、膝に手をきちんと乗せて改めて問うてくるサラン。
「アーク様が明日、心に決めた人を選ぶのならば私は何も申しません。ですが、アーク様のため、ひいては私たち姉妹のため……もし、少しでも迷われているなら、私にお任せください」
迷い……か。
正直なところ、明日の計画なんてこれっぽっちも立っていない。むしろ、どうやったら逃亡できるかなんて考えていたくらいだ。ええ、俺はヘタレですよ。何とでも言いやがれ。
だから、何ごともなくことが済むなら大歓迎なくらいだ。サランに任せるってのは申し訳ないし、自分のことなのに何もできないのが情けないが、その提案自体はありがたかった。
「……そう、だな。俺もまだ本心が揺らいでいる。こんな状況で嫁選びをするのも、サランたち姉妹に申し訳がないな……」
え、ジジイはいいのかって? 知るか、そんな枯れ木。
「だが、サランだけに任せるのも忍びない。俺も、一緒にシャリーたちのところへ……」
「いいえ、私が一人でいたします」
すぐに俺の提案を却下するサラン。
「こんなこと言うのも何ですが……きっと、二人で行くより私一人の方が効率がいいと思います。特にリンリン姉様辺りはたいそう、アーク様のことを気に入ってらっしゃるので。ここは、妹である私にお任せくださって、アーク様は早めにお休みください」
言葉の裏では「私ならリンリン姉様たちに叱られても構わないので」と言っているようで、胸が苦しかった。急に、サランの申し出を受け入れたことを後悔したがもう遅い。サランはすっかり乗り気だし、姉たちに叱られたり嫌われたりすることもいとわないようだ。
……どうして、ここまで俺に尽くしてくれるんだろうな。見た感じ、俺に対する好意ってのは欠片も見られないんだが……。むしろ、嫌われているような気さえするんだが……。
だが、こんな質問も野暮だろう。いくら俺のことが気に入らなくても、「困った人間を助けたい」っていう精神で動いている可能性が十分にある。強烈な姉たちに揉まれたこの五女なら、少々見切り発射的な慈善行為でも、進んで行うだろう。そういう性格だと、この六日間で読みとった。
結局、案を受け入れるしかなかった。
「……分かった。じゃあ、この件はサランに任せるよ」
何も助力できない自分がふがいない。だが、ここまで熱心に俺のことを考えてくれた故の提案なんだろう。申し訳ない気持ちが大きいが、サランに委ねてみたい。
「……だが、ひょっとすれば事態がもっとややこしくなったりするかもしれないぞ」
「……そ、そうですね。できるかぎり、善処いたします」
では、とサランはひとつお辞儀をして軽くスカートの裾を払った。
「私はこれで。明日、アーク様が晴れて自由の身になってお屋敷へ帰られることをお祈りしています」
「……ああ。すまないな、サラン」
本当に、すまない。
サランはそっと微笑み、ランプの光度を幾分落としてテーブルに戻すと、静かに部屋を出て行った。
さっきより暗くなった部屋に、俺一人が残された。
どうしようにもなく、自分が情けない。
サランの申し出を断ることもできたはずだ。だが、「できるものなら厄介払いして家に帰りたい」っていう子どもじみた我が儘に身を委ねてしまった。楽をして帰りたい。面倒なことはまっぴらごめん。
……あああ、俺って本当にダメ男だな。「イケメンなのにいろいろ残念だね」って言われるのももっとも、ってか……。
ぽすっとベッドに倒れ込む。ちょうど、さっき放り投げたジジイと同じ格好になったから、ごろんと体を回転させてベッドに仰向けに転がる。
「アーク様は悪くありませんよ」
サランの言った言葉が、ぐるぐると頭の中を駆けめぐっていた。




