表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
6日目 縁の下にいるのは苦労人
90/108

15

 自室に帰り、上着やベルトを外して体を軽くし、ベッドにぼすんと倒れ込む。薄暗い部屋に徐々に目が暗順応し、天井にぶら下がる古びたランプがぼんやりと目に映った。

 一息、二息付く。


 ……ちょっと、やりすぎたかな。

 つい、恨み辛みが募って暴言を吐いてしまった。確かに、ジジイに対しては不満ばっかりだ。でも、それでも奴は俺に食事や生活の場を提供してくれる。それになにより、五人の弟子には何の罪もない。彼女たちこそ、自分勝手なジジイに振り回されているんだろうし、俺が切れるのはお門違いだっただろうか。

 いくら相手が枯れ果てた嫌みジジイとはいえ、老人に怒鳴り散らすのは貴公子として恥ずべきことだったな。


 ……そういえば、サランはもう上がったんだろうか。ジジイを部屋に放り込んだことを報告していなかったし、一言挨拶してから寝ようと思って体を起こす。

 と。タイミングを見計らったかのように、控えめに鳴らされる俺の部屋のドア。

「アーク様……いらっしゃいますか?」

 あっ、ナイスタイミング。サランだ。

「ああ、いるよ」

「……入ってもよろしいでしょうか?」

 入るだけでも許可を求めるのか……どこぞの爆乳とか、窓に張り付く男女とは雲泥の差だ。

「いいぞ。鍵はかかっていない」

「はい、失礼します」

 ゆっくりノブが回され、まず、ぼんやりと光るランプがドアの隙間から差し入れられた。クラシックな雰囲気のランプを提げているのは、白い腕。

「あっ……明かりは付けていないのですね」

「あ、すまん。もう寝るつもりだったから……」

「えっと、ランプを持ち込んでもよろしいでしょうか?」

「そうだな、すまない」

 サランはきっちりドアを閉め、ランプを手に部屋に入ってきた。テーブルにランプを置き、何ごとか小声で呟く。いつぞやも見た、明かりの魔術なんだろう。ランプの光が一気に強くなり、狭い部屋中にいっぱいのまぶしい光を放った。

「師匠はもうお休みになったのですね」

 ちょいちょいランプの明かりを調節しながらそう聞かれ、俺は頷いたが……。

「……なったのですね、ってことは、あの後じいさんのところに行ったのか?」

 まるで確認するような、念押しのような言い方だったためそう軽い気持ちで聞いてみたんだが。

 サランは目線を落とし、ちいさく頭を横に振った。

「……いえ、師匠のお部屋へは入っていないのですが、その……」

 部屋には入っていない。でも、じいさんがベッドに入った(突っ伏した)ことは知っている。

 ……つーことは……。


「……話、聞こえていたのか」

 静かに問うてみると、揺れるランプの明かりに照らされたサランの顔が急にこわばった。隠し事の下手な性格なんだろう、動揺が抑えきれず、ほおが引きつっていた。

 言われなくても分かる、図星なんだろう。

「……すみません。新しい毛布があることを思い出して、アーク様の後から上がっていたのです……」

「……そうだったのか」

 ってことは、やいのやいの怒鳴る俺の声も全部、廊下の角あたりで聞いていたんだろう。部屋に入っているシャリーたちには聞こえなかっただろうが、ドアは開いていたし、廊下に立っていれば嫌でも耳に入ってしまうんだろう。

 手の平を嫌な汗が伝う。

 何か言わねば、と何度か酸欠になった金魚のように口を開閉させるが、どうもいい言葉が思いつかない。謝罪、弁解、肯定、どれもが不向きに思えた。

「……ええと、サラン……」

「いえ、大丈夫ですよ。アーク様は悪くありませんよ」

 俺の言葉を手で制し、サランはやんわりと微笑んだ。

「おっしゃる通りです。師匠はお優しい方ですが、少し強引なところがあって。この六日間も、アーク様には多大なご迷惑をおかけしました」

 変わらない穏やかな笑みを浮かべて、サランは頷く。

「アーク様、私たちは今まで、本当にあなたを追いつめることしかできませんでした。ですから、私もアーク様のために何かしたいのです」

「何か?」

 一体何を言い出すんだとじっと、サランの顔を見つめているとサランはわずかに顔を反らし、幾分声のボリュームを落とした。

「……明日、アーク様は不本意ながらにも、婚約者を選ばなくてはならないのでしょう?」

「不本意ながらって……そりゃ、そうなっているけど……」

「でも、無理な婚姻なんてアーク様も望まれないのではなのでしょうか」

「……」

 サランの言いたいことは、分かる。分かるし、まさに図星だった。

 でも、意外だった。サラン以外の四人は最初からわりと乗り気だったし、この数日間も比較的ご機嫌だった。だが、サランは悩んでいたんだろう。これでいいのかって。

 得体のしれない、どこぞの公子の嫁に選ばれる可能性のある自分や姉妹の心配に加え、望まぬ結婚を強いられた俺のことを案じていたのか。

「ですから……アーク様が少しでも、この契約を望まないとお思いならば、私も協力いたします」

 胸に手を当て、先ほどの柔らかな表情から一転、決意を秘めた眼差しでサランはじっと俺を見上げてきた。

「師匠や姉様に物申します。アーク様に無理強いをさせてはならないと。このままお屋敷へ帰られるべきだと」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ