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ドアを開けるとそこは異世界でした。
……うん、まさにそんな感じだった。
俺の想像としては……相変わらず屋内は暗くて、ちょっとしたらさっきの女がぱたぱたと走り寄ってくる。「用はお済みですか」「ああ、まあな。助かった」「いいえ、お役に立てたようでよかったです。あっ、よかったらもう少しゆっくりして行かれませんか?」などといったほのぼのストーリーが繰り広げられ、焼きたてパンをいただけたりする、と期待していたのだが……。
カッと、真っ白な光が目を刺す。トイレの中もほんのり暗かっただけに、俺は思わずうめいて顔を袖で覆った。すると……。
「姉様、いましたわ。さすが、姉様の読み通りですね」
「いいえ、これはあなたと……あとサランのおかげでもあるのですよ」
「姉様ー、こいつどーすんの? 本当に公子様なのー?」
「そうよ! とっとと師匠に突き出しましょう、姉様!」
聞き覚えのない女の声が、四人分。どれも、先ほどの女のものではない。
恐る恐る目を開ける。徐々に目が明順応し、俺の目の前には思いも寄らない光景が広がった。
まず、俺を包囲するように立ちはだかる四人の女。この家の便所は建物の端に位置するらしく、前方を女、後方を便所に挟まれた俺は、まさに袋のネズミ状態。
「ちょっと、なんか言いなさいよ」
いや、そう言われても……何を言えと?
とりあえず、状況確認だ。
目の前にいるのは四人の女。一人は、やったら上質そうなドレス(間違いなく絹製だな)でめかし込み、シルバーブロンドの髪まで丁寧にカールさせた女。俺よりいくらか年下で……しかもかなりの身分と見た。美人ってのはパーティーで見慣れているが、この女は俺も認めるほどの美女だった。美人でありながらしとやかって感じがして、人もよさそうな雰囲気がする。
その隣にいるのが、何というか……いろいろと爆発した女だった。特に、胸が。そんなんぶら下げて生きていけるのかってくらい、とにかくでかい。今まで見た誰よりでかい。で、顔もかなりいい。切れ目で目も髪も黒い。おまけに身長も高い。俺より年上で……とにかく胸がやばいやつだとは分かった、うん。
で、その隣……さっきから俺を不躾にじろじろ眺めている女。濃い赤髪を頭の横で二つに束ねていて(後で知ったのだが、こういう髪型をいわゆる「ついんてーる」と呼ぶらしい)、ガラス玉のように丸い緑色の目で俺を食い入るように眺めている。服装も、先方の二人よりもかなり地味……というか実用的で、城勤めの学者を彷彿させるような出で立ちだった。とにかく、そんなに見ないでくれ。
で、最後の一人。便所横の壁にだるそうにもたれかかっている男……のような女。卵の黄身みたいに黄色い髪はかなり短く、しかも逆立てているから余計、男っぽく見えた。四人の中では一番年下っぽいが、何しろ足をさらけ出しすぎなズボン(「ほっとぱんつ」と呼ぶらしい)に腕丸出しのシャツ(「たんくとっぷ」と呼ぶらしい)を着ており、顔立ちもどこか幼いため、一見すれば近所の悪ガキに見えなくもない。
そういうわけで俺は、この異様な女四人組に包囲され、逃げ場をなくしているのであった。