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今日の晩飯はいつになく豪華だった。
考えてみれば今日が、俺がここにいる最後の夜。明日には「婚約者」なるものを決定し、その女性を連れて家に帰らなければならない。
……考えてみると、本当にあわただしい一週間だった。
そんでもって、俺と婚約者(未定)の門出(?)を祝うべく、サランが作った料理に加え、焼き菓子だの高級おつまみ(と、テディが呼んでいた。見た目はただのハムだな)だのもテーブルに並べられた。古い木のテーブルが料理の重さに耐えかねてみしみしと軋むほど、テーブルの上は盛りだくさんだった。
「師匠! 今日こそはちゃーんとラ・マーヴァーを取り寄せてきましたよ!」
いつぞやのように立派な胸の谷間からにゅっとワインボトルを取り出すリンリン。そのラベルには……おおお! 本当に、かすれた印字で「ラ・マーヴァー」のロゴが入っている!
初日にはヴォルフォヌテで不満を垂れたじいさんだが、これには満足らしい。にこにこと、滅多にない笑顔でリンリンからボトルを受け取った。
「うむうむ、さすがリンリン! やはり一週間に一度はこれを飲まなければ老体にはこたえるわい!」
けっ、年寄り扱いされたら怒るくせに、都合のいいときには老人アピールか。結局このじいさんはわけ分からんな。
まずは暖かいサランの食事を全員で食べる。こんなにまともな食事を食べたの、えらい久しぶりな気がするな。コーンスープの甘さ加減がうちの屋敷のコックとちょうど同じくらいになっている。なかなかいい仕事しているじゃないか。
「そーいえば公子様、この前はヴォルフォヌテ飲んでぶっ倒れてたよね」
遠慮もクソもなくテディが言い放ち、その場の者全員も思い出したらしく、プッと吹き出す声が聞こえ、数名からは哀れむような視線を送られた。
「あれ、見物だったよ。一口飲んだとたん、ゴホッてむせてイスごと後ろにひっくり返ったの。いやぁ、まるでコントみたいだったね」
思い出しても楽しいのか、自分で言っておきながらくすくす笑うテディ。リンリンも上機嫌で、ポンポンと俺の肩を叩く。手じゃなくて、胸で。
「そうがっかりしないのー。前回のヴォルフォヌテは、在庫品の中でもちょーっとキツいのを買っちゃったのよ。今日のはテディやサランでも飲めるくらい軽いのにしたから、シャイボーイも大丈夫だってー」
これって慰められているのか? だって、つまりは俺よりシャリー、リンリン、ユイらの方が酒に強かったってことだろ?
そりゃ、酒の耐性なんて人それぞれだし、恨みっこないんだが、女よりも酒に弱いってことが俺のプライドにビシビシとチョップを喰らわせていた。俺、これでも少しはイケる方だと思ってたんだが……こいつらが尋常ならぬザルなんだろうか?
ジジイが持つボトルは、淡いピンク色をしている。ラ・マーヴァーにもいろんな種類があるが、確かピンク色のチェリー味は他のよりはアルコール指数が低かったはずだ。女性でも飲めるってのが売りだったような。
でもまあ、何味だろうとラ・マーヴァーなんて代物そう簡単に飲めるモンじゃない。「ラ・マーヴァー飲んだぜ」って言えば、士官学校の同級生も目ん玉飛び出すだろうな。リュートでさえ、滅多に口しないって言ってたし。
「でも、アーク殿だけでなく、やはり私たちにとっても今日はあまりきついものは飲まない方が正解でしょうね」
グラスをテーブルに並べ、シャリーも言う。
「明日は大切な日。気分を高めるためのお酒は有効ですが、あまり飲み過ぎると毒にしかなりません。リンリン、あなたは特に気を付けるのですよ」
姉に名指しで指摘され、嬉々としてコルクを持ってきていたリンリンはうっと言葉に詰まった。やはりこの爆走女も、姉には弱いらしい。
「うう……はぁい、了解です、姉様……」
降参、とばかりに両手を耳の両脇にそろえてあげるリンリンを見、シャリーは満足げにゆっくり頷いた。この笑顔ひとつで全てを統率しているんだな、シャリー恐るべし。
ジジイによってコルクが開けられ、透き通ったピンク色のワインが七つのグラスに注がれる。注いだのはユイ。やはりきっちりした性格のユイは寸分違わず、ワインを七等分した。ピンク色の水面がきっちり一列に並ぶ姿はなかなか見応えがある。
「では、我々の明日の幸運を願って、乾杯といこうかの」
ジジイが真っ先にグラスを取って音頭を取る。五人姉妹も次々にグラスを手にし、七つのワイン入りグラスが掲げられる。天井のランプに照らされ、宝石のようにきらきらと明るい桃色にグラスが輝いた。
「かんぱーい!」
かちっと、小気味のいい音が響いた。




