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一針一針丹誠を込めて縫い上げたぬいぐるみは、俺の剣によって大破。ジジイのジャッジの結果、俺だけでなくはしゃいだ姉妹たちにも非があるとされ、五人揃ってサランに土下座。パーになった仕事を挽回すべく、姉妹たちは自分の仕事も中断させてサランの作業の手伝いをし、俺は邪魔にしからならないからと、庭から追放され、罰として家の廊下の掃除を命じられた。
……まあ確かに、自慢するつもりで剣を抜いたのも、威嚇とはいえ剣を振ったのもまずかったよな。しかも振った先にあったのができたばかりのクマぬいぐるみだったし。
最後に使ったのは何年前なのかってくらいボロ臭い箒を肩に担ぎ、俺はふかーいふかーいため息をついた。
こりゃ、嫌われたな。だって、一生懸命作ったぬいぐるみを一撃で破壊されたんだぞ? そりゃ、その男のことがうざくなるよな。
ため息をついていても仕方がない。さっきまで体の体重を預けていた箒をさっさと動かして、廊下のちりを払う。最初に来たときから思っていたが、この家はやたら暗い。廊下の窓が少ないのもあるんだろうが、日中のはずなのに明かりが差さず、廊下に散乱する魔術の道具やら鍋やらが影になってしまい、うっかり蹴飛ばしそうになった。
しかも、埃の量もかなりのもんだ。一度、箒でさっと払えばもわっと舞い上がる灰色の煙。思わずむせ、袖口で口と鼻を覆った。
「うっわ……ここ、何日掃除していないんだ……?」
埃だけじゃなく、泥もかなり上がっている。一応、キッチンや応接間、実験室や自室には目立った埃や汚れはなかったが、この薄暗い廊下は掃除する人もいないのか、まっくろくろすけさんが自由に繁殖なさっていた。
いっそのこと、廊下中に水をまいて埃を流し出した方が早いんじゃないかとも思えたんだが、俺にはそんな権限ないし、下手すれば必要なものまで泥だらけにして壊してしまいそうだ。そんなもんで、可能な限り窓は開け放ち、高価そうな壺や乾燥した植物なんかは避け、箒を最大限に活用しながら埃のみをかき集めて玄関の方へと掃き出した。
ドアは外に向けて開け放ち、つもり積もった埃を一気に追い出す。もわっと盛大に灰色の煙を吐き出しながら埃は固まりになって外へ吹きだした。「やだー、きったないわね、シャイボーイ!」とかいう声が聞こえた気もするが、無視、無視。
一通り掃けたら箒を片づけ、モップ用意。これは誰かがたまには使っているんだろう、さっきの箒よりかは使用感があり、埃っぽくもなかった。
……ただし、最後の使用者は相当ずさんな性格だったらしい。モップをしっかり絞らずに掃除道具箱に押し込んだ模様で、毛糸の部分はなぜがぐっしょり湿っていて、しかもぽちぽちと緑色の物体がこべり付いている。
俺、知ってるぞ。これ、緑カビっていうんだろ?
さすがにカビの生えたモップを使う勇気もないし、使えば使ったで、家中にカビが蔓延しそうだったので、見なかったことにした。そっと、元の位置にモップを戻して仕方なく比較的きれいな雑巾を水に浸して固く絞った。
そうそう、よく言うよな。お嬢様生まれやおぼっちゃま育ちだと雑巾のしぼり方が分からないって。ところがどっこい、俺は知ってるんだな。
なぜかというと、士官学校に入りたての頃、よく羽目を外して学校の備品を破壊したり、上級生に売られたケンカを買って、結果返り討ちにしたりと教師を怒らせるようなことばっかりしてたんだ。で、その罰則の中に構内の清掃ってのもあった。もちろん、便利なモップなんて使わせてくれない。雑巾を与えられ、延々と続くながーい廊下を雑巾がけダッシュするんだ。俺のみならず一緒に罰則受けた仲間と雑巾がけリレーをして新記録を打ち立てたりしたんだ。
というわけで、公国の公子といえど雑巾がけもばっちり。雑巾しぼりなんて屁でもない。窓の桟や床板の拭き方もマスター済み。
一通り拭き終え、泥だらけになった雑巾を庭の水道で洗っているとちょうど、外の方も終わったらしい。各々作品を抱えてレジャーシートや工具を片づけている中、サランもきちんと、腕に茶色の固まりを抱えているのが見えてほっとした。
家の中に入ってきた六人の反応も上々で、「やるじゃん!」とか「見違えるようですわ」とか「これからはアーク殿を掃除夫として雇いましょうか」とか「あ、それいいね!」とか言われた。
ジジイも、自宅がきれいになってまんざらでもないんだろう。ふんと鼻を鳴らし、ジト目で俺を見上げてきた。
「貴族のくせになかなかやるの。貴様、公子より掃除人の方が適職なんじゃないかの?」
「お褒め頂いてありがとうございます」
ジジイの嫌みは鮮やかにスルー。口を開けば嫌みばっかのご老人より、最後に家に入ってきたサランの方が気になった。




