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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
6日目 縁の下にいるのは苦労人
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「でも、俺はこの剣で実際に人を斬ったことはない」

 ちょっと躊躇われたが、俺は膝立ちになって腰の剣の柄に手をやった。はっと、驚いたようにこちらを凝視するサランの視線を受けながら、鞘の留め金を外してゆっくり、刃を引き抜いた。

 強い日光を浴びて白銀の刀身が輝き、サランはまぶしそうに目を細める。ちょくちょく手入れをしていた刃は油を塗ったように輝き、触っただけで指が切れそうな鋭さを醸し出していた。

 親父から譲ってもらった、フォード家の紋が入った剣。ちょっと前の誕生日に、「アークにあげるのだよー」とプレゼントとして与えられた。

「これ、結構きれいだろ。手入れだけはきちんとしているんだ」

「あ、はい……」

 抜き身の剣の美しさは評価できるのだろう、サランは首を傾げたり伸ばしたりしながら、銀の刃をしげしげと眺めている。

「これ、俺にとってはお守り程度なんだ。人を斬るなんてとんでもない。できれば使わないまま朽ちた方が俺としても嬉しいし、いざとなったらこれでジャガイモでもニンジンでも何でも切ればいい」

 本心も込めてそう言うと、すっかり緊張の糸もほぐれたのだろう。サランはふにゃりと気が抜けたように笑い、安堵のため息をついた。

「はい。……よかったです。私、剣を持つ男の人ってちょっと、怖かったので……」

 女なら大丈夫、ってのはテディがいるからだろうな。

「その気持ちは分かる。でも、帯剣する男が全員、物騒な野蛮人じゃないってのは分かってくれたよな?」

「はい、ありがとうございました」

 ほとんど完成間際のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、サランは笑顔で頷いた。よかった、これで少しは好意的に捉えてくれるようになったかな。サランも満足そうに、できあがったばかりのぬいぐるみを脇に置いて次の作業に取りかかろうと、毛糸を巻きだした。

 俺も、ちょっと鼻高々で剣を鞘に戻そうとしたんだが。


「……あー! 公子様、その剣いい仕事してるねー!」

 背後からかかった、場違いなほど明るい声。はっとして身構えたがもう遅い。疾風のごとき素早さで俺の右手から剣がかっさらわれ、後ろに立っていた第三者の手に収まった。

「いやぁ、いい輝き! おや、きちんと銘も彫っているね」

「お、おい、テディ!」

 振り向けば、やはり。手の中でくるくる俺の剣を回しながら鑑定モードに入っていたセオドア嬢が。いかんせん、その持ち方は手慣れたものだったが、くるくるとジャグリングのように回すものだから、気が気でない。こいつがそんなヘマするとは思えないが、万が一手が滑ったら俺やサランに刺さるぞ!? ショートソードといえど、刃渡りは二の腕の長さくらいはあるんだ。

「あ、分かった。これ、フォード家の紋章ね。いい造りしてんじゃん」

「おい、返せ……」

「あらぁ? 値打ちものの剣ねぇ」

 とっさに奪い取ろうとした俺の手は空を掴む。テディのさらに背後から細っこい腕が伸び、剣をかっさらった。

「質屋に売ればいい値が付くかしら……」

「リンリン!」

 いくらなんでも聞き捨てならず、思わず声を上げて次女につかみかかろうと立ち上がった。が。

「いけませんよ、リンリン。アーク殿の大切な剣でしょう」

 再びひょいと、剣が次の女の手に渡る。シャリーは自分の髪と同じ色の刀身を見つめ、うっとりと指を滑らした。

「丁寧に手入れされていますね。とても、大切な剣なのでしょう」

「お、おう。だから、返してくれ……」

「ふむ、この刀身は特殊な金属を融合させて作った合金のようですね」

 シャリーの細い指の間を縫うように、なめらかな手つきで剣がユイの手に渡る。ユイは職人さながらの眼差しでじっと、傷ひとつない剣に目をこらして見入る。

「刃こぼれしにくく、劣化しにくい。実際の戦闘での強度は期待できませんが、宝刀としての価値は十分。展示するだけならば、かなり長い年月、原形をとどめることができましょうね」

「そ、そうだな」

 分かったからそろそろ返してくれ、と手を差し出したが、横からにゅっと別の腕も伸びる。

「えー! もっと見せてよ! ほら、テディちゃんなら扱いも慣れてるよ!」

「何、私ももっと見たいわ。シャイボーイ、こっちに寄越しなさい」

 まだ諦めきれない次女と四女。この二人は放っておくとますます厄介なことになるだろう。

 ここは心を鬼にせねば! と、ユイの手から剣をもぎ取るべく声を上げる。

「これは、俺の剣だ! おまえたちに見せたり質屋に出させるために抜いたんじゃない!!」

 剣を奪い、威嚇するように一度、弧を描くように剣を振るった。もちろん、俺の周囲にたかる四人を傷つけないよう、細心の注意を払って。


 うん、気を付けたんだ。四人には、当たらないようにって。


 四人には。


 さくっと、何かが破ける音。剣の先が、何かに埋まる感触。

 皮膚じゃない、もっと柔いものを切り裂いた触感。


 俺のみならず、四人姉妹も驚愕の表情で、剣の先を見つめている。俺も、内心冷や汗ダラダラでゆっくり、振り下ろした剣の先に目を落とす。

 威嚇のつもりで振った剣。その先に突き刺さった、毛糸の固まり。ほとんど完成していた、茶色の固まり。

 その顔面に深々と突き刺さった、俺の剣。

 中から切れた毛糸があふれ出している、クマさん。


「……あっ、サラン……」

 初めて聞く、怯えを帯びたシャリーの声。姉の声を聞き、さっきからずっと黙ったままだった五女がゆっくり目線を自分の足下に落とす。そこには、先ほどから時間をかけてじっくり作り上げたクマのぬいぐるみ……だったモノが。

 顔を上げて、俺を見上げる。


 その目から、一粒だけ、ぼろりと大粒の涙がこぼれ落ちた。

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