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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
6日目 縁の下にいるのは苦労人
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 何から話せばいいのか、正直ぱっとは思いつかなかったが……サランがいろいろ話を促してくれたから、どんどんと話題が出てきた。

 たとえば、初めて士官学校の門をくぐったときのこと。黒い木枠で縁取られた学校の門が、当時の俺にとってはやけにでっかく、まがまがしく見えた。あの門をくぐれば、もう二度と出てくることができなくなるんじゃないかと、妙な不安に襲われたものだ。

 学校に入って間もなく、俺はフォルセスの王子様たるリュートと出会った。あっちは連合王国を統べる国王陛下のご子息。こっちは名もない貴族のクソガキ。当然、あっちには身分相応のちゃらちゃらした貴族のバカ息子が取り巻いていたし、こっちは一人でぼけっと講義を受けていたし。

 だが、武術の授業で偶然一緒のチームになり、共闘して他のグループと模擬試合を行うことになった。そのグループには他にも、剣なんか握ったこともないようなひょろい同級生も混じっていた。そんな中、俺とリュートだけ突っ走って試合相手のグループを蹴散らし、叩きのめし、伸していた。俺は久々に鬱憤晴らしできることが嬉しくてつい羽目を外してしまい、隣のリュート王子もノリノリで槍を振るうもんだから、二人で暴走しまくったんだ。

 同グループの他の奴は早々にくたばって、木の陰で優雅に休んでやがった。おまえら、自分は一体何をしたんだ。

 とにかく俺とリュートだけで相手は全滅。教官もびっくりするぐらい。で、リュートも俺の剣技には感じることが多かったらしく、それからはちょくちょく、話すようになった。

 俺もリュートの気さくな所は気に入ったし、それから卒業するまで、俺たちは一緒に授業を受けたり悪さしたりしたんだ。一度、訓練中に教官を叩きのめしすぎて二人一緒にげんこつ喰らったこともあった。それも今ではいい思い出だな。


「アーク様は本当に腕が立つのですね」

 感心したように言われるが、面と向かって褒められるとどうも恥ずかしくなる。それに、昨日サランの姉に完膚無きまでぼこぼこにされたんだ。

「……いや、テディにも負けたし、リュートともいっつも互角程度だった。まだまだ俺も未熟ってところだな」

「でも、剣を振るうなんてそう簡単にできることではないでしょう」

 そう言い、サランは俺の腰元にある剣を見つめた。俺は護身用のため、普段からこのショートソードを腰に下げるようにしているが、ほぼ習慣のようになっていた。きちんと鞘には収まっているが、抜き身の剣なんかは見たことがないんだろう、しげしげと剣を観察していた。

「刃物って……持っていて怖くないですか?」

「え?」

 目線を上げると、真摯な眼差しで俺を見上げてくるサランと視線がかち合った。

「私は、料理するときは包丁を持ちます。裁縫するときも針を持ちます。でも、剣は日常生活で使うのではないのでしょう? 持っていて……怖くはないんでしょうか?」


 意外だった。俺たち貴族にとっては帯剣するってのはごく自然なことだ。説明したように貴族の公子はたいてい少年期に武術を学ぶ。剣術だったり棒術だったり、格闘技だったりするが、どれも自分や配偶者の身を守るためにしているんだ。剣を提げるのだって、いつ何時不審者が襲いかかってきてもいいように、真剣を持っておくんだ。

 で、万が一斬り合いになったりする。そうなったらもちろん、血を見ることになる。自分の血か、相手の血か。もし俺が誰かに襲われようものなら、迷わず剣を抜くだろう。そういう風に、教わってきたから。

 ……だが。

「マクシミリアンでは帯剣する人はいないのか?」

「はい。法律で決まってます。護身用としても、持っていいのは本当に小さな……果物ナイフ程度。刃渡りが手の平の長さを超えるものは持ってはなりません。フォルセス連合王国のほとんどではアーク様がお持ちのような剣を身につけることが許されているようですが……」

 戸惑いがちに答えるサラン。

「マクシミリアンには軍隊がありません。共和国のリーダーが管理している自警団が警備役を担っていますが、彼らも剣や槍は持ちません。馬に乗って仕事する方も、ここのように鎧兜を身につけてないので……」

 そういえばそうだった。フォルセス連合王国の中でも特殊な部類に入るマクシミリアン自治区。「とてものどかで、のどかすぎる地方だ」と噂に聞いてはいたが、これほどだったとは。

 思い返せば、マクシミリアンから来る使者は全員、簡素すぎる服装だった。そもそもマクシミリアンとの交流もなかったんだが、身分が高くっても腰に剣を下げたり、軍隊を引き連れたりはしてなかったな……。

 サランは、そんな国で生まれ育ったんだ。血を見ることも、襲い襲われることも危惧しなくていい、平和な国で……。


「……まあ、確かに実際に人を斬るとなれば怖いな」

 考え考え口にすると、サランは「やはり、そうですよね」とどこかほっとしたように微笑んだ。話している間も休まることのない縫い針はせっせと、愛らしいクマのぬいぐるみを作り上げていた。

「でも、マクシミリアンが法律によって平和を保たれているなら……うちは、権力や武力によって平和を保っているんだ。歴史的に見ても、この辺は昔、戦争が多かった地域らしいし」

「……はい。師匠からも伺いました」

「マクシミリアンみたいに戦わなくても平和が保たれるんならいいけどな、うちはそうもいかないんだ。こうやって帯剣することが習慣になっているし、今更やめることはできない。たとえ俺が帯剣をやめたって、他の諸侯もやめるとは言い切れない。むしろ、剣ももてないふぬけだとあざ笑われて奇襲を掛けられるのがオチだろうな」

「……」

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