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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
6日目 縁の下にいるのは苦労人
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「……あの」

 ぼんやりと庭木を眺めていると、控えめな声がかかった。サランの方から声を掛けられることがあんまりなかったから、すぐに木から目を離す。

「ん、どうかした?」

「……いえ……」

 だいぶ形ができあがったぬいぐるみに新しい色の糸を通しながら、サランはうつむきがちになった。このぬいぐるみ、大小様々なパーツが付けられている。この形からして、クマだな。

「……私、貴族の方とお話しするのも、恥ずかしながら今回が初めてで……」

「え? あ、そうなのか?」

 ちょっと意外だったが、考えてみればそれも当然だ。

 じいさんや他の姉弟子は皆、そこそこの身分を持ってたりする。シャリーはフォルセスの貴族で、リンリンは異国の王族。ユイは王立研究所の娘で、テディも由緒ある家系の出。皆、それなりに公家と交流したりパーティーに出たこともあるだろう。ジジイは言わずもがな。貴族や王族からの注文や依頼が舞い込んでくるくらいだ。俺程度のはした貴族と話すくらい、屁でもないだろう。

 だが、さっき本人が行ったようにサランはフォルセス辺境の自治区出身だ。マクシミリアンには貴族階級が存在しないし、サランの身分も皆無に等しい。王族にまみえることはおろか、俺ら三流貴族と接することさえなかったんだな……。しまった、シャリーらに慣れつつあったから、つい平民の感覚を忘れていた。俺としてはあるまじき失態だ。

 これでも「社交性」は失わないように気を付けてきたつもりだ。幼少期はフォード領内の一般市民の子どもたちと一緒にチャンバラごっこしたし、昼には一般家庭にお邪魔してそこの息子と一緒に昼飯を頂戴したこともある。フォルセス城で暮らしている間もなるべく、一般兵や使用人たちと話すようにしていた。リュートもそんな感じだったから、自然と身に付いていたのだがな……。

 今まで俺の中で確立していた常識を覆すタローの弟子たち、恐るべし。


 サランはそんな経験一切ないということだし、俺は頭をかいた。

「あー……すまない、それも当然だよな」

「あ、はい……あの、そこで」

 編みかけのぬいぐるみを胸に抱き、サランは意を決したような表情で俺を見つめてくる。

「アーク様が普段、どのような生活をされているか知りたいのです!」

「俺の?」

「はい!」

 さっきまでの内気そうな顔から一転、好奇心に満ちた笑顔でサランは請う。

「お勉強していたことや、お仕事や……差し障りのない程度でよろしいので、教えてほしいのです」

 その表情は、新しいおもちゃを与えられた子どものように無邪気で、まぶしかった。

 サランに限らず他の姉妹も、本当に素の表情をよく見せてくれる。あのユイでさえ、姉妹たちと語らっているときなどは無表情の仮面を剥がして微笑みを浮かべてすらいたんだ。

 表情をころころ変え、相手に分かりやすいぐらいはっきり感情を表すのも、貴族界ではやすやすとはできないこと。そりゃ、相手の言葉に逐一嫌な顔したり安堵の表情を見せたりしたら簡単につけ込まれてしまうだろ。士官学校時代は、「相手に表情を悟られないようにする方法論」って講義があったな。

 ちなみにその講義、全三部構成で「相手に表情を(略)Ⅰ」から「相手に(略)Ⅲ」まであったのだが、俺は毎度不可判定を喰らいかけていた。リュートが試験期間に作法を教えてくれたおかげでなんとか単位を落とさずに済んだのだが、あれは苦痛だった。「アークみたいな性格だと感情を隠すのも大変だよね」と、何を考えているのか読み取れない笑顔でリュート王子はのたまった。


 とにかく、そんな裏表のない笑顔で頼まれたら断れない。それに、俺も別に自分の素行を教えたくないわけでもない。

「いいけど……多分あんまりおもしろくないと思うぞ。俺、普通の貴族みたいな優雅な生活してるわけじゃないし」

「お気になさらず。私はアーク様のことを知りたいので」

 変わらない笑顔で頷くサラン。

 自然と、俺のほおも緩んできた。

「……分かった。それじゃあ……何の話からしようかな」

 温かい時間はゆっくりと、過ぎていった。

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