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「あっはっは! もみじ、もみじ、もみじのお手手!」
「すばらしいですね、これほどくっきりした手形が残るなんて。記録的です」
「季節外れですが、こんな麗らかな春の日に紅葉が鑑賞できるなんて、逆に風流ですわ」
「うっふふふ、どうだったよ、特上マイルドな手触りは? ああん?」
……もう、放っといてください。
俺の左頬を、真っ赤な手形が鮮やかに飾っていた。サランは右利きだから、当然平手打ちすれば俺の左頬に痕が付くんだ。それにしても本当に、肌が肌を打ち付ける音ってよく響くんだな……。
先ほどの騒ぎを聞きつけて、他の姉妹たちもこぞって俺の頬観察ににじり寄ってきた。ただ一人、紅葉の制作者サランは俺に背を向け、黙々と針を進めている。あの直後、顔を真っ青にして「ごめんなさい!」とは言われたんだが、そりゃあ怒るよなぁ……。
やいのやいの詰め寄ってくる姉弟子たちを押しのけ、俺はおずおずと、サランの背中に膝立ちで向かう。その小さな背中から異質なオーラが放たれているように見えるのは気のせい……なわけないか。
「……ええと、サラン?」
「……」
「その……すまなかった」
「……」
「いや、リンリンのいたずらだったんだろうが、サランは気を悪くしたんだろうし……」
「……いえ、本当に、お気になさらず」
ずりずりとゆっくり、サランは向きを変えて俺を横目で見る。手の中のぬいぐるみはかなり形になってきていて、そろそろ目鼻が付けられそうだった。
「私こそ……失礼しました。貧相なものを触らせた挙げ句、またアーク様に痛い思いをさせてしまい……」
「や、それは本当にこっちの責任だから」
俺だって健全なる成人男子だ。貧相とか立派とかに限らず、胸を揉めればそりゃあ嬉しい。何しろ……ええ、この性格とか行動ゆえ今まで彼女なんてできませんでしたから。レディの胸を揉む機会なんてありませんでしたよー。
……あ、なんだかいろいろやばくなってきたかも。
「そ、それにしてもリンリンたちもあくどいよなぁ!」
「え?」
うむ、ここは話題転換話題転換!
「作業の時間を削ってまでして俺たちにちょっかいかけてくるんだぜ? 相当暇だよなー!」
サランの手の中で段々と形を描いてきているぬいぐるみを手で示しながら言うと、サランは軽く目を見開き、やれやれとばかりに肩を落とした。
「……いえ、姉様方はそれでもきちんとやっていけるのですよ」
「ん?」
どういうことかと思って後ろを振り返ると……さっきまでそこでたむろしていたシャリーら四人の姿はなかった。その代わり、シャリーとユイは既にじいさんの方に集っていて、シャリーから順に、じいさんと魔力を注ぎ込むべく、奮闘していた。向き合うじいさんとシャリーを中心にしてベールのような淡い光りが降り注いでいるようだった。リンリンとテディはまだ制作中のようだが、制作物はかなり形を表していて、完成もそう遠くないことを物語っていた。スタートは全員同じだったはずなのに、全員圧倒的にサランより仕事が速い。
いや、その理由は大体想像が付く。俺がサランに付きまとっている。姉弟子たちもちょっかいを出してくる。俺もいいようにいじられる。それでありながら、姉たちは手際がよく、作業効率が落ちない。だがサランは妨害が入れば入るほど作業効率が落ち、完成も長引いていく。
「……なんか、ごめん」
「いえ、いつものことですから」
頭を下げる俺に、サランは優しく言い返した。
「それに、いつも私は最後にできあがるんです。師匠も気長に待ってくださいますし、姉様方もご自分のお仕事が終われば手伝ってくださいます」
ちょっと、申し訳ないんですけどね。そう付け加えて。
「今日はまだ落ち着いている方です。それに、みんなで楽しく作業するのも私は好きなので」
「……確かに」
よく晴れた春の日。庭に出て、弟子仲間と語り合いながら作業をする。家の中で一人黙々と針を進めるだけでは得られないものも多いだろう。ちょっと休憩するときにはすぐにティーセットでも持って出られるし、サンドイッチなんか作ればもう心はピクニック気分。
そういうのも、いいよな。




