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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
6日目 縁の下にいるのは苦労人
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 なんだろう、このデジャブ感は。

 ああ、そうだ。昨日もこういう展開があったんだ。胸のサイズがどーのって……。


「姉様!」

 いつにない声を上げ、サランは姉を振り返り見た。その衝撃で、作りかけのぬいぐるみが膝から転がり落ちる。

「そういうお話はなさらないでと言ってますのに!」

「だってー、通りすがりでちょっと耳を傾けたらー、何だか楽しそうなお話ししてるしー」

「だ、だからといって……」

 もごもご口ごもるサランの頭をよしよしし、リンリンは俺に標準を定めてきた。好奇心に満ちた目でこっちを眺めてくる。

「で、シャイボーイはどうなの?」

「は?」

「胸。おっきいのと、ほどほどなのと。挟まれるくらいなのと、両手に収まるくらいなの」

 こ、こいつはまた、男を誘うような発言を……。

 聞かずとも、「おっきいの」は自分のダイナマイト級な一品を示してるんだろうし、「ほどほどなの」はサランの……まあ、そこそこなの……を示してるんだろうってことは分かった。よーく分かった。

「……あのな、俺はそういう話は……」

「はー? 何いい子ぶっちゃってんのよ! あんたくらいの年の男っていうと、そーゆー目で女を見たり、アレがどーのこれが××××で××××だの、この前の彼女の方が××××は×××とか……」

「あーあー! 放送禁止放送禁止!」

 見ろよ、サランが顔真っ赤だろ! さすがに俺だってこれほどの用語を立て続けに言われたらそりゃ恥ずかしいっての!

「そういう問題じゃなくて!」

「あれ、さてはあんた、女より男に興味が」

「さすがに怒るぞ」

「うん、ごめんちゃい」

「……とにかく! 胸の大きさであーだこーだ言うつもりはないってことだ!」

 なにせ、目の前に「おっきいの」と「ほどほどなの」がいらっしゃるんだ。どっちに転ぼうといい目に合わないのは一目瞭然だ。

 するとリンリンはふーんと唸り、どこか感心したように俺の肩を叩いてきた。

「見直した! やっぱあんた、少しは見所あるみたいねー!」

「……は?」

 いきなりの態度の変化に、思わず俺はサランと顔を見合わせた。気を取り直して編みかけのぬいぐるみをいじっていたサランも、不思議そうにこっちを見つめてくる。

「……リンリン。おまえ、頭大丈夫?」

「ええ、今朝も二時間かけてきっちりヘアーセットしたから。この前届いた美容シャンプー、効果覿面よ」

「そっちじゃない」

「うん、ごめんちゃい」

 リンリンは続いて、ぽかんとする妹の頭をごしごし撫でだした。

「てっきり『俺は美乳派だ!』とか言うんだとばかり思ってたから。そっち方面にレディファーストを証明するのかと思いきや。あー、よかったよかった! あんたもやっぱり紳士の心構えは身に付いていたのねー」

「……そらどうも」

 褒められたはずなのに、ちっとも嬉しくない。むしろダシにされたようですっきりしない。

「姉様……そういう話題は恥ずかしいので、あまり外では声を大にしないでください」

 もぞもぞと作業再開しながらサランが申し出る。顔は真っ赤だが、言うべきことは言う派なんだろう。じっと、リンリンを見上げている。

 だがここは天下のマ・リンラ様。妹の非難もなんのその、ころころと楽しそうに笑って言い返した。

「そーお? 私たち、一緒にお風呂入った仲じゃない。そんなに気にすることかしら?」

「いえ、アーク様はここでは第三者ですよ……」

 小声で訂正するサラン。

 ちなみにもう一人の「第三者」認定を下すべきジジイはと言うと、素知らぬ顔でテディの木彫り細工の手伝いをしていた。この声量ならあっちにも聞こえているはずだが、聞こえているのか聞こえていないのか、聞きたいのか聞く気はないのか、とにかくこちらには目を寄越していなかった。きっと、毎日リンリンたちと接していたら日常茶飯事になっちまうんだな。慣れって怖い。本当に。


 うーん、とリンリンはつまらなさそうに唇に白魚のように細い指を当てる。

「……そうねぇ、じゃあ話すのはやめにしましょう」

「そうしてください」

 やれやれとばかりに肩をすくめて、リンリンから目線を戻してぬいぐるみ作りをするサランだが。

 ……何だろう、「話すのは」ってのがすごい気に掛かるんだが……。

 ちらとリンリンの方に視線を寄越すと、ばっちり目線がぶつかった。にいっと、朱が引かれた唇が怪しげにつり上げられる。

「そうよ、シャイボーイ。言わなくても伝わることは多いわよね」

「え? ……あ、まあな……」

「んー、この前私の胸は体感したはずだし……今日は手の平サイズの試食会ねー!」

 訳の分からないことを宣言するなり、手持ち無沙汰に膝に置いていた俺の右手をさっと掴むリンリン。

 あ、まずい予感。

 だが、俺が手を引っこ抜こうと神経を働かせるより、リンリンの方が素早かった。神経より速いっておまえ、どんな筋肉してんだ。

 ぐいと俺の手を引き、「ある場所」へと誘うリンリン。異常に強いその力に抗うこともできず、つんのめるようにして倒れ込む俺。

 右手に柔らかい感触。もちっとした、ふにっとした、この前食べたマンジューみたいな手触り。

 目を上げれば、表情を固まらせたサランの顔が間近にあって。糸が通された縫い針が頬の横にあって。

 俺の右手には「しかるべきもの」がしっかりと握られていて。


 ……。


 青空に甲高い悲鳴と、空を切るような清々しい張り手の音が鳴り響いた。

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