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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
6日目 縁の下にいるのは苦労人
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 今日の飯当番はサラン。初日の晩に食べたのと似たような、家庭的な朝食が卓に並んでいた。サラダや焼きたてのパン、コーンフレークと一般家庭を彷彿させるような品で、久々にまともな食事を食べた気がした。昨日は肉づくしだったから、何だか胃もたれがしていたんだ。


「今日は魔具制作でもしようかの」

 温かい食事を終えた後、手ふきで手を拭いながらジジイが言った。マグ? と首を傾げる俺に、後片づけをしていたサランが耳打ちする。

「魔法の道具です。お守りや短剣であることが多くて……私たち魔術師が魔力を道具に注ぎ込むのです」

「……ああ、そういえば魔法のお守りってのは見たことがあるな」

 確か、うちの領内の町や土産物屋にも並んでいたはずだ。見た目は普通のお守りなんだが、魔術師が自分の魔力を注ぎ込んでいるため、守護効果があったり体調がよくなったりするって評判だったな。ただ、小さい見た目の割に値は張っていて、俺でも財布を出し渋るくらいとんでもない値段が付けられていた。当然、一般市民が気軽に買えたもんじゃない。

「そうじゃ。確かにたいていの魔術師は魔具を高値で売り出すからの」

 俺の話を聞き、ジジイは渋い顔で頷いた。

「魔具の効果は……それこそ、術者によるが、たいていの物は莫大な効果を持っておる。貴族の中には大金をつぎ込んでまでして強力な魔具を作らせる輩もおるんじゃ」

「……でもじいさんたちは、一般市民には無料で魔具を配布している、ってところか?」

「そうじゃのー……。無料にならずとも、格安では提供しておる」

 ジジイが片手を挙げて合図し、さっとリンリンが立ち上がって近くのチェストの引き出しを開け、なにやら古びた布の固まりらしき物を取り出した。擦れた布地はくすんだオレンジ色で、濃い茶色の編み紐ストラップが付いている。

「これ、師匠が昔作られたお守りよ」

「これが?」

 見た目はほんとに、ただのぼろ布切れなんだけど……。リンリンからそれを受け取ってみたが、別に何とも感じない。ごわごわと固い布の感触が皮膚を通して伝わってくるのみだ。

「何か効果があるのか?」

「そうじゃの。それは腹痛を治すお守りじゃ。弟子たちが急な腹痛で苦しんでいるとき、薬を煎じている間はそれを持たせるんじゃ。薬のような根本的解決には至らんが、即効性は高いぞ」

 ジジイが説明する。確かに、冷たいチェストの中にしまわれていたにしては、このお守りは握ってみるとどこか温かい。腹を壊したときにへそに当てると何だか効果がありそうだな。

「とまあ、そんな感じの道具を作るのも魔術師の仕事の一つじゃ」

 リンリンにお守りを返すと、ジジイは食卓の隅に積まれていた紙くずの中から、封筒らしき物をいくつか、引き抜いた。

「ほーれ、もうこんなに依頼が入っておった。さすが貴族、汚いのう」

 もうこんなに……ってことは、昨日作ったばかりのあの派手ポストに入ってたのか?

 うーん……確かに。そこまでして貴族は高価なアイテムを手に入れたいのか。俺も貴族の端くれだが、そこまでするかなぁ……。

「では、私たちがお手伝いすればよろしいのですね?」

 シャリーの申し出に、じいさんは安心したように頷いた。

「そうじゃ。今回の注文はお守りや懐刀、人形なんかじゃな。あと、近くの村からは豊作のお守り像を作ってほしいとの依頼も来ておる。既に先払いのつもりのようじゃ」

 そう言って、じいさんは古びた封筒を引き抜いて弟子たちに見せた。他の封筒よりずっとくたびれているそれには、泥が付いてしわくちゃになった紙幣が何枚か、入っていた。ざっと計算してみて、俺の一ヶ月分の小遣いくらい。俺にとっては端金だが、農民にとっては大金なんだろうな……。

 お守りを元の位置にしまったリンリンが、意気揚々と手を挙げる。

「じゃあ、まずは豊作のお守りからですね! お金はもちろん、そのまま返却!」

「もちろんじゃ」

 貴族から届いたらしい、やたら上質な封筒をぺいっと脇に放り投げ、じいさんは札束を取り出し、丁寧にしわを伸ばした。

「代金は要らんと言っておるのにのう……まあ、お守りを渡すときに返せばよかろう」

 村人からは金をせしめない。その考えが、ここでは浸透していた。

 ジジイやリンリンの発言に文句一つ言わず、むしろ「早く作ってあげないとね」「たくさん作物が実るといいですね」と言葉を交わす姉妹たち。


 ここに来てよかったな、とこっそりと、思えた。

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