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夕食も、肉。なんだかこの一日だけで俺は一週間分のタンパク質を取った気分だぞ。まあ、うまかったのは確かなんだし文句は言わないことにする。てか俺、居候だし。
「あっ、これから夜の訓練開始なんだけど、公子様もどう?」
食事を終え、片づけも済んだ後でテディが誘ってきた。
「でもおまえ、夜は早く寝る派なんじゃなかったのか?」
「そだよ。だから、ここでいい汗流してひとっ風呂浴び、それですぐベッドにダイブするのがいいのよー」
なるほどな。疲れた後はよく眠れるっていうし、効率としては決して悪くないんだろう。
「分かった。じゃあお邪魔させてもらうよ」
「ええ、どんどこい!」
今回は見学に回らせてもらうことにした。すっかり日の沈んだ庭に出て、ハンドタイプのランタンをいくつか、庭先に置いてぼんやりと明るくさせる。
「やぱりあたしはこうやって体を動かす方が性に合ってるわぁ」
例の激重鉄剣で素振りしながらテディは言う。あの鋼鉄を振り回しながら息を乱すことなく喋れるあたり、やっぱこいつの体力は並みじゃないんだな。
「この点だったら姉妹の誰にも負けない自信があるのよ」
「……でも、じいさんに付いていくことに決めたんだろ?」
確か、テディは四年くらい前にこっちに来たはずだから、当時のテディは十二歳。自分の適性については分かり始めてもいい年頃だろう。
ふいに、テディは素振りを止め、肩を落として鉄剣を肩に担いだ。おいおい、そんな持ち方して脱臼しないのか……?
「そりゃあね。師匠が来て説明してきたときには父さんもビックリしてたわ。で、まあいろいろ言ってくれたわ。魔術師は生まれ損ないだとか、軟弱者の仕事だとか、人間じゃないとか。あれほどまで言われても顔色一つ変えなかった師匠は本当に、すごいわね」
「……そんなに言われたのか」
「うん、まああたしも驚いていたから。でも、正直なところあたしも魔術ってのには興味があった。父さんにしごかれる日々は、忙しくてやりがいはあったけれどどこか虚ろだった。自分の進路も勝手に決められているようで嫌だった。だから、あたしは師匠について行くことにしたの。自由にしてもいい? って師匠に聞いたら、もちろん、って答えてくれたから。そんでもって、憤る父さんをそっちのけで準備完了。めでたくこのお家に住まうことになったのよ」
虚ろな日々。決められた将来。
「つーわけで、あたしはその日の打ちに勘当。親子の縁も切り離されちったのよ。あれから一度も里帰りしていないし、帰ろうとも思わない。ま、うちには男兄弟はいたから、跡継ぎ問題に関しては全く影響がなかっただろうしね」
そう言い、再び剣を持ち上げて素振り再会するテディ。忌まわしい過去を口にしたはずなのに、テディの横顔は底抜けに明るい。今やっている素振りを最大限まで楽しもうと、その横顔が語っていた。
「……おまえ、強いんだな」
「そりゃそうだよ。公子様も一発KOだし」
「や、精神的な面でも」
言うと、テディは素振りを止めることなく、少し驚いた顔で俺を振り返り見てきた。揺れる炎の灯りを受けて、テディの金髪が鮮やかに輝いている。
「おまえみたいに前向きに考える姿を見ていると、こっちが恥ずかしくなるよ。俺だって一応貴族だし、決められた将来に嫌気が差したことも何度もあるから」
それなのに、俺より幼かったテディは自分で自分の道を決め、前を向いてその道を歩んできた。それってすごい立派なことじゃないかな。
心からの気持ちで褒めると、テディはえへへ、と軽く頬を赤く染めた。
「あんがと。公子様に褒められるとまんざらでもない気がするよ」
「そうか?」
「そうだよ」
ねえ、とテディは一旦剣を止め、いつになく落ち着いた表情で、俺に問う。
「もし、明後日公子様があたしを選ばなくても……あたしたち、ずっと戦友だよね? 終わったらポイ、じゃないよね」
「終わったらポイって……言い方が悪いけど」
玄関ポーチから腰を上げ、俺の胸の前あたりにあるテディの頭に右手を乗っける。ごわごわとした髪を撫でると、テディはくすぐったそうに笑った。
「当たり前だろ。俺も、おまえと訓練できて楽しかった。今日は完膚無きまでにぼこぼこにされたが……いつか、一本取らせてみるからな」
「へへへ、そりゃ楽しみだね! その時には、公子様に惚れ直しちゃうかもしれないよー?」
「はは、それも楽しみだな」
ぐしゃぐしゃと、ちょうどいい高さにあるテディの頭をかき回すと「やめてよー」とじゃれるように声を上げるテディ。
こういう関係ってのも悪くないな、と思えた。




