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心の中のみでグチグチとジジイを罵りつつ、広葉樹の木立をかき分けて家の前に戻ると、ちょうど三姉妹も郵便受けを作り終えたところだったらしい。きれいに芝生が刈り込まれていた庭には木くずや失敗作とおぼしき木枠や底板、工具なんかが散らばっていた。
……てっきり、シャリーお得意の風魔法とかで作るのかと思っていたが、全部手作業だったんだな。首に手ぬぐいを掛けて額の汗を拭う美人姉妹は優雅を通り越えて、何だか雄々しく見えた。
「ああ、ちょうどいいところに帰ってこられましたね」
ロングスカートのくぼみに溜まった削りかすをぱたぱたと手で払い、シャリーが小さく手を振ってきた。
「なかなかかわいらしいのができあがりました。いかがでしょうか?」
そう言い、シャリーはできたばかりのポストを持ち上げてこっちに見せてきた。
ポストってものは赤いもんだと思っていたが、今回三人がこしらえたポストはどきついピンク色をしていた。おまけにペンキの上からニスを塗っているからテカテカと、イヤミなほどに輝いていた。
ポストの外周にはぐるりと真っ赤なりリボンが巻かれ、ハチマキみたいな形で側面で大きなリボン結びにされている。六つある面のほとんどにはクマらしきイラストがびっしり描かれ、くどいくらいおしゃれだった。
それでも郵便受けとしての最低の機能は果たしているらしく、リボンに邪魔されない位置に受け口と取り出し口がついている。
「かわいいでしょ? これ、私たちで作ったのよ」
かわいいを超えてけばい郵便受けを愛おしそうに撫でながらリンリンが言う。
「本当はもーちょっとかわいい飾りを付けたかったんだけど、ユイに止められちゃって。まあ、確かに郵便受けとしての役割が果たせられなかったら意味がないもんねー」
「姉様方はやたら派手にしようとなさるので止めるのが大変でしたよ」
かんなに付いた木くずを払いながら、ユイがため息をつく。
「一応、試しに小包を入れたところきちんと取り出せました。雨の日も大丈夫なように防水加工も施しています」
「うむ、ご苦労じゃった」
ジジイは満足げに郵便受けを受け取り、ぽつねんと立ったままのポールの上に箱を乗せた。
「これで新しいポストの完成じゃ。よくやってくれたな、シャリー、リンリン、ユイ」
褒められた三姉妹は嬉しそうに微笑み、そそくさと後かたづけを始めた。
かんなやノミ、のこぎりまであちこちに散らばっている。ちょっと離れたところにある失敗作とおぼしき半壊した木箱は、打ち捨てられたかのように転がっていた。
「……魔術師でも日曜大工はするんだな」
テディに耳打ちすると、テディは当然だとばかりに頷く。
「そりゃそうだよ。あたしたちだって、何でもかんでも魔法を使うわけじゃないよ。厩舎が壊れたら自分たちで直すし。あたしは大工仕事も得意だから、ユイ姉様が作った設計図を元にいろいろ作ったりすんのよ」
「ユイがデザイナー係なんだな」
「そだね。ユイ姉様はきっちりかっちりなさってるから、寸法や計量は姉様にお任せするの。あたしは、姉様の指示通りに木を削ったり釘を打ち付けたりするだけ。あと、飾り付けは他の姉様たちに任せるから」
正直、驚いた。魔術師っていうからには日常の動作から何まで魔法に頼り、自分の手で何かを作るってことはないんだと思いこんでいた。そういえばシャリーも料理は手製のがおいしいって言ってたし、やっぱ魔法が全てじゃないんだな。
そのこともテディに言ってみると、テディは大きな目を軽く細めて、こっくり頷いた。
「そうそう。シャリー姉様だって、お裁縫が趣味なんだよ。やっぱり手製の方が暖かみがあるって。昨日はユイ姉様が公子様の服を引き裂いたらしいけど、それを直したときもサランは手縫いだったんでしょ?」
確かに。あの時は反省モードだったから何とも思わなかったが、サランは一針一針丁寧に縫い直してくれた。魔法を使えばあっという間に直ったんだろうが、わざわざ自分の手で縫ってくれたんだな。
「ま、これは師匠の方針でもあるんだけどね」
他の姉妹と一緒にポストを絶賛するジジイを見やり、テディは言った。
「魔法に頼りすぎない。できることは自分でする。……あたしはこのやり方、結構気に入っているから、師匠のやり方には感謝してるんだよ」
そう言って、笑った。眩しい太陽に負けないくらい、明るい笑顔だった。




