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「……そういえば初対面で、サランは俺のこと借金取りって言ったよな」
ふと、数日前のことを思い返して問うと、先ほどのことを水に流すことにしたのか、普段の顔色に戻ってサランは頷いた。
「はい。リンリン姉様がお化粧品をしこたま買い占めたお金なんですが……お金は残っているはずなのに、姉様は借金をなさっていて。たまに、借金取りに脅された村人が来るから用心して、とは言われていたんですが……」
「それも同じ仕組みじゃ」
サランに頷きかけてじいさんは言う。
「村人が借金取りに脅されて代金の徴収に来た時は大抵、うちの周辺に借金取り本人が目を光らせておる。そういう場合はそれこそ、無碍にはできん」
「そういえばあの時、あたしや姉様はお買い物に行ってて留守だったんだよね」
思い出したのか、テディも明るい口調で言う。
「あー、でもこれですっきりしたわ。姉様たちは訳知り顔だったけど、今まで聞く機会がなかったのよねー」
「……でも、今日はポストを破壊されたんだろ?」
あの粉微塵具合だ。何らかの魔法を使ったんじゃなかろうか。
俺の予想はアタリだったらしい。じいさんはこっくり頷いた。
「先日も薬の注文が多かったじゃろう? ここ最近村人からの訪問も多くてな。念のため結界を弱めにしていたんじゃ。少々甘く見すぎていたんだが……そこそこ上級魔術師なら十分渡れるくらいだったんじゃろう。結界を踏み越えて、ご丁寧に嫌がらせをしてきたんじゃ」
嫌がらせか……まあ、不意打ちで家を破壊されるよりかはましだけど、何となく嫌らしいな……。後ろでつねり合うみたいで、陰湿な……。
「というわけで、これからはもう少し結界の強度を高くするつもりじゃ。せっかくシャリーたちが新しい郵便箱を作ってるのでの、また破壊されてはたまらんわ」
うーん……魔術師の世界ってのも、意外と俗なのかもしれないな。てっきり、高潔で正々堂々な奴らばっかだと思ってたんだが、やっぱり嫉妬したり、嫌がらせしたりっていうのはあるもんなんだな。
「……でもさ、師匠。この結界ってそこそこ強力なんですよねー?」
「うむ。強度については抜群じゃ」
「じゃあさー、公子様ってもうこっちに入ってこれないの」
テディとじいさんの会話を聞いていて、ようやく俺は思いだした。
そう。「変態公子」のレッテルを貼られ、こうして閉め出されているのだという事実を。
「うむ。改心せん限りは弾かれるじゃろうな」
「お、おい、嘘だろ!?」
思わずジジイに掴みかかりそうになったが……できなかった。
「いってぇ……まだ結界残ってるんか!?」
「そらそうじゃ。今の貴様の脳裏にはCカップのサランが」
「師匠!」
自分もその事柄を思い出したのか、再びかあっと赤くなるサラン。真っ赤な顔もなかなか可愛い……じゃなくて!
「誤解だ! というか今のは誘導尋問だろ!」
「知らんわ。結局、貴様もそこらの痴漢と大差なかったということじゃの……」
「痴漢じゃない!」
だって、あんなこと言われたら誰だって想像するだろ!?
当の本人サランは真っ赤な顔のまま俯き、テディに慰められていた。
「いーじゃない、Cもあるなら。あたしなんて洗濯板だよー」
「……姉様。私はCもありませんよ」
あれ? そうなの?
「そうだっけ? 前一緒にお風呂に入った時は……」
「い、言わないでください!」
……とにかく。
「まさか、俺が無心になれるまでずっとここで閉め出し状態なのか?」
「そうなるのぉ」
「おい!」
「というのは冗談じゃ」
ほれ、とジジイは結界を踏み越え、俺の腕を強引に引いてずるずると結界の内側まで引っ張り込んでしまった。もちろん、ビリリとくることはない。
「あれ? 結界解除したのか?」
「うんにゃ。そもそも貴様は結界に弾かれることはないんじゃ」
「……は?」
何言ってんだ、このじいさん。現にさっき俺は不埒な想像をした(らしい)ということで結界から拒否反応を示されたばかりなんだが……。
「さっきのはフェイクじゃ。結界の効果を示すために、ちょいとビリリとさせたんじゃ。貴様がこのラインを踏み越えようとしたら電撃を放つ。簡単な話じゃ」
……何?
「えー!? じゃああたしたち、師匠にだまされちゃったんですかー!?」
ジジイの背後でテディがぷうっとほおを膨らませて抗議する。
「ししょー! せっかくおもしろい物が見れたと思ったのにー!」
「おお、すまんのう。テディにサラン」
かわいい弟子たちには表情を崩して平謝りするじいさんだが、当然一番の被害者たる俺には謝罪の言葉は一切、なし。
「今度からはもっといい魔法を見せてあげるからの、今日はこれくらいで勘弁してくれ」
「はぁーい」
「私は構いませんよ」
……たくさん勉強もできたんだが、何だかすごく、疲れた……。




