12
へぇ、見た目よりも結構あるんだな。
……って、おい!
「何言ってんだこのエロジジイ!」
「し、師匠!」
俺とサランがほぼ同時に声を上げた。くっ、顔が熱い……多分瞬時に顔が真っ赤になった。でも俺に負けじと、サランも頬を赤く染めて身を乗り出した。
「こ、公子様に何を……んぐっ」
「まーまー、ちょっと待とうよ、サランちゃん」
いきり立つサランの背後からテディが忍び寄り、振り上げた拳を捕らえて後ろからその両腕を拘束した。ふむ、すばらしく無駄のない動き……じゃなくって!
「あ、あのなぁ、じいさん……」
「よし、それじゃあこっちへ戻ってこい」
反省も後悔もする気配なく、ジジイは背後で騒ぐ姉妹弟子をスルーして俺に向かって手招き。
本当に、このじいさんのしたいことって分かんないな……。
一発食らわしたくなり、ずかずかとジジイに歩み寄り。
ばちっ
「いって!?」
ジジイが引いた線を越えようとしたとたん、鋭い痛みが体中を走った。痛みと言っても、軽い電撃を食らった程度だ。だが、すっかり油断していたこともあって足元がふらつき、俺はその場に尻餅付いてしまった。
「いたた……おい、何だよ今の!?」
「これが結界じゃ」
しれっとしてジジイは言う。背後の弟子二人も動きを止め、じいさんと倒れる俺を不思議そうに見比べている。「今、貴様は邪な思いを抱いて結界を踏み越えようとした。さっきも言ったように、この結界を張っているのはわしじゃ。わしが気に入らないと思う輩は全て排除、じゃ」
よ、邪な思いって……。
ええ、そりゃあ不埒な想像はしましたよ。だってジジイがあんなこと言うんだ。想像してはいけませんって言う方が無理だろ。俺だって健康な成人男子ですから。
だが、この結界は通る人間が思っていることも察知するんだな……くそっ、また弱みを握られた気分だ……。
「まあ、考えていることが分かると言っても、何となくの範囲じゃ。今、貴様が一体何を思っていたのかはわしにも分からん。わしが察知したと言うより、わしが作った結界が察知した、と言った方が正しいからのう」
怒る気も失せたのか、おそるおそるサランが挙手する。
「しかし……何も、その、やましい思いのみを弾くわけではないのでしょう?」
「それはそうじゃ。今回、この健全なる男子を実験台に使うのには先ほどの手が一番手っ取り早いと思ったからじゃ」
ジジイの言葉に、サランは頷く。だが、俺の方は見てくれない。隣のテディも、考え考え言う。
「今までには……強盗とか、荒くれを退治したことはありましたよね。あの手の感情も察知できるってことですか?」
「そうじゃ。主に……殺意や破壊衝動、嫉妬や不埒な考えなどはカットするようにしとるんじゃ」
「だが、ユイも言っていただろ。この前刃物が入っていたって」
ジジイの言うことが正しいなら、タローや弟子たちを傷つけるつもりで郵便受けに刃物を入れようと思うなら、この結界を踏んだ時点で弾かれるはずなんだが……。
俺の問いに、ジジイは思う節もあるのだろう、忌々しげにあさっての方向を睨め付けた。
「そうじゃ。昔はその手でうまくいったんじゃが……貴族も庶民的な知恵が付いたんじゃろう。金に困っている村人をダシにしとるんじゃ。金をやるから、この包みをあの家のポストに入れてこい、とな」
それを聞いて合点したのか、ぽん、とテディが手を打った。
「だからか! 魔術師や貴族は弾かれるはずなのに、どうやって変な郵便物を入れていたのか、ずっと気になってたんですよー」
テディたちもこの仕組みは知らなかったんだな。村人としては金はほしいし、仕事自体は単純だ。村人は「金のために仕方なく働いている」んだ。そんな気持ちで危険物を手に結界を踏んだ時……ジジイならこう考えるんだろう。「それも仕方ない」と。
だから結界は村人を弾かない、弾けない。おそるおそる郵便受けに荷物を入れた村人は脱兎のごとく逃げ帰り、貴族からなけなしの謝礼をもらうんだ。そうしないと食うのに困る人間もいるから、とジジイの作った結界も甘くなってしまうんだな……。




