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「貴様はこっちじゃ」
ちょうど掃除を終えた四女と五女にも手招きし、ジジイは家に背を向け、さわさわと音を立てる木立へと向かっていった。「師匠どうしたのかな?」「新しい魔法でしょうか」と言葉を交わす姉妹の後ろについていくと、うっそうと広葉樹が茂る獣道の中程でジジイは立ち止まった。
「……ちょうどこの辺りじゃの」
一見何もなさそうな空間を見ながらじいさんは言い、ちょいちょいと俺に向かって手招きした。
「穀潰し、実験台じゃ。さすがにかわいい弟子たちにさせるのは気が引けるからのぉ」
……絞めてやろうか、この枯れ木。
だがテディにも「頑張れ、穀潰し!」と背中を押されたので仕方なく、ジジイの前に立つ。横から木の枝が張り出してくるから、四人の中で一番背の高い俺は時折頭を下げたりしないと、額が枝にぶつかりそうになる。
「よし、じゃあこの線を踏み越えた先で、すぐ止まるんじゃ」
ジジイは足元に落ちていた木の枝を拾い、自分の一歩手間の土に短い横線を引いた。いわゆる、ここが「結界」の境界線なんだろう。ジジイに言われるまま、俺は線を踏み越え……その場で振り返った。
「……で?」
「今、貴様は結界の外におる」
ジジイは言うが……俺の目には結界なんてもの、当然理解できなかったし、見ることもできなかった。多分、俺とジジイの間のわずかな空間に結界ってのが張られてるんだろうが、そこは何もない空間。もやとか壁とか、そんなものは見あたらなかった。
それはテディやサランも同じらしく、ジジイが示す先を見て不思議そうに首を傾げたり、目をこらしたりしている。
「ということは、もう俺はじいさんたちの所には入れないのか?」
「いや、そうとは限らん」
そう言って、ジジイは再び手招きする。こっちへ戻ってこいってことなんだろうが……。見えないけれど、ここに結界があるんだよな? ということは下手すれば弾かれたり、痛い目にあったりする……ってことだよな?
このジジイ、俺が酷い目に遭う姿を見たいってことなのか? そういう趣味があるのか?
柔らかい腐葉土の地面を踏み、思い切って一歩、足を進めるが……。
「……ん?」
何ともない。スタスタと結界を超えて戻ってきた俺の背中を、ぽんとテディが叩いた。
「よっ。何ともなかった?」
「別に……」
「それは貴様が魔術師でなく、なおかつ悪意も持っていないからじゃ」
どこか悔しそうに言ってのけるジジイ。やっぱこいつ、俺のこと嫌いなんだな。
「基本的にこの結界は、平民や非魔術師は弾かん。そんなことすれば、薬注文しに村人が入れなくなるからの。貴族が痛い思いをするのはともかく、罪のない一般市民を虐げるつもりはないからの」
「……それはそうだな」
「結界はわしが作ってるからの、意志を持ってるんじゃ」
ほれ、とジジイは俺を引っ張って再び結界の外に押し出した。
「貴様は魔力を欠片も持っとらんから、その点はどうしようもないが……」
ちらと、ジジイは背後のテディとサランを見て……。
「……ちなみに。サランの胸はCカップじゃ」
とおっしゃった。




