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「ほんとゴメン!」
「いや、もういいから」
「でも、かなり腫れてたし……」
「俺だってテディの背中に一発打ち込んだことだし、おあいこだろ?」
気が付くと俺は、いつぞやのように自室のベッドに寝かされていた。頭には包帯が巻かれていたから、たんこぶもそれほど痛くなかった。
テディは部屋に来るなり、笑顔を消して平謝りしてきた。
「それは訓練中よくあることじゃない! でもあたしは、殺人級の一撃をお見舞いしちゃったんだし……」
「……そうなのか?」
「あ、口が滑っちゃった」
……まあ、いいや。
包帯が緩まないよう、頭の横に手を添えながら俺はもう一度、ベッドに身を横たえた。
「……でもまあ、いい訓練になったよ。あんだけしたたかにぶたれたのも何年ぶりかな」
「……ああ、それってユイ姉様から聞いたよ。鬼上官が殴ってくる試験を受けたそうね」
俺が本当に怒っていないと伝わったんだろう。テディは表情を緩め、手近にあったイスを引いてちょこんと腰掛けた。
「いいなあ、あたしも士官学校行きたかったよ。同年代の女の子と一緒に特訓してさぁ……」
「……フォルセスにも、テディに勝てる猛者はいないだろうがな」
「あ、言ったなこいつ。後でリンリン姉様に報告だぁ。あの巨乳に挟まれて窒息してしまえー」
……どうやら、機嫌は直ったようだ。
今日の昼食は、やっぱり肉。だが、ランチであることは意識したらしく、肉が大きな葉っぱで巻かれていた。
「これなら食物繊維も摂取できるよね」
どうだとばかりに胸を張るテディだが……このでかい、カエデのような葉っぱを食うことで果たして食物繊維が取れるのか。もし取れたとしても、相変わらず存在感のでかい肉本体の栄養素に全てを奪われてしまうのではないだろうか。
「そうですわ、師匠。先ほど郵便受けを見たところ……」
フォークを置いてシャリーが口にしたため、全員一斉に彼女に注目する。
「見たところ?」
「見事に破壊されていましたわ。よほど腹が立ったのでしょうか」
頬に手を当て、長い睫毛を伏せるシャリー。
「師匠、そろそろこの場所を去るべきかもしれませんね」
「うむ。この変態が来なければとっくの昔にそうしておったわい」
ジジイは俺を肘で小突きながら言う。変態って……。
「だが、金鉱の件もあるしそう簡単には引っ越しできまい。悪いがもう少しの辛抱じゃ」
「というか、郵便の制度を変えた方がいいんじゃないですか?」
ちらと外の方を見やってリンリンが言う。
「ほら、この前も村人を装った借金取りが押しかけてきたし……」
「それは姉様が問題じゃないの?」
「そ、そうだけど……でも、いつ包囲網を突破されるか分かりませんよ」
借金取りをナシにしても、と小声で付け加えるリンリン。しばらく思案の表情を浮かべ、ユイがジジイを見つめた。
「しかし、姉様のおっしゃることももっともです。先日も、研ぎ澄まされた包丁が郵便受けに入っていました。幸運にも私が発見し、その場で焼却処分しましたが、テディやサランが怪我してもおかしくない状況でした」
うっ、そんなこともあるのか?
ジジイは村人には優しい商売をしているとは聞いていたが、やっぱり貴族からは恨みを買うんだろうか……。
「そんなに、貴族からのイヤミは酷いのか?」
俺が問うと、ジジイはこっくり頷いて最後の肉の欠片をぽいと口に運んだ。
「まあな。貴族だけじゃなく、他の魔術師からの嫌がらせもたまに来るんだが……」
「陰湿だな……」
「ではせっかくだし、午後はこやつに郵便受けを見てもらおうかの」
とジジイは仰せになった。




