7
「ねえねえ、公子様ってどれくらい剣を習ってたの?」
仲よく草をはむクロウとアマンダを眺めながら、テディが問うた。
「朝の様子を見ていると、そこそこ手練れのように見えたからさー」
「士官学校なら、十歳から行ってたぞ」
フォルセス連合王国に属する国の公子のほとんどは、少年期をフォルセス城で過ごす。公子の中には文官を目指す者もいれば武官を目指す者もいるし、領地を継ぐ使命を持った者も多い。フォルセス城では学問所も開かれていて、文武両方を城で学ぶことができるんだ。
基本的に、最初の数年は学問と武術両方を学ぶ。で、しばらくたったら武術はやめてもいいってルールなんだ。十三歳以降、武術を続けたい公子は士官学校へ入る。やめる者は、上級学院へ進む。俺とリュートは、士官学校の道を選んだ。
で、上官にしごかれながら武術を学び、それに加えて学問所にも通い、ある程度の成績と単位を収めたらめでたく卒業。フォルセス王の印鑑が押された書状を持って領国へ凱旋したのだった。
俺は留年することもなかったから、卒業できたのは十八歳。つまり現役。俺は一応跡取りだから、城で武官採用試験を受けることもなく、フォードへ帰って親父の執務を手伝う日々を過ごしていた。
ちなみに公子じゃなく姫の場合はというと。こちらも士官学校と上級学院に分かれているが、俺たち男子と一緒の学校に通うことはない。女兵士になるなら女性用士官学校に行く必要があるし、女官や跡取りになるなら上級女学院だ。男女二校の接触は城内でもほとんどないからこそ、公開訓練やダンスパーティー、学生レセプションが異様に盛り上がって、付き合うだの婚約だのの言葉が飛び交うんだ。あのピンクな空気は、俺には耐え難かった。
というわけで、俺が正式に剣を習っていたのは八年間と、あと公国でも教わっていたからプラス三年ほどの……十一年くらいかな。
「へえ、じゃああたしの方が長いんだね」
これまた勝利に満ちた笑顔でのたまうテディだが……。
「……おまえ何歳?」
「あたし? あたしはもうすぐ十七歳だけど」
「……何歳から武術を習ってたんだ?」
「ん? ……うーん……物心付いた時にはもう模造刀振り回してたなぁ……」
親曰く、ハイハイの頃から木刀背負わせてたらしいのよー、とあっけらかんと話すテディだが……。
「そ、そんな赤ん坊の頃から剣を持たされてたのか?」
「そだよ。うちの家柄上、そういうことになってるし」
ああ、そうだ。テディの家は代々武闘派なんだっけ。文と武で、まさに、ユイの家族とは真逆なんだな。
……かといって、普通ハイハイする子どもに木刀背負わせるか?
「父さん曰く、足腰を鍛えるためだったらしいよ」
カモシカのように鍛えられた自分の細脚をパンと叩いて、テディは言う。
「朝から晩まで訓練訓練。ちなみにあたしの名前が男っぽいのも、うちの方針なのよ。うちの家系は子どもが生まれたら絶対、男の子の名前を付けるの。あたしの父さんにはお姉さん……あたしにとっては伯母さんがいるんだけど、名前はリック。本名はリチャードよ」
「……そんなことがあり得るんだな」
つまりは、女だろうと男のように育てということなのか。男尊女卑の香りがして、何となく不快だな……。だが、その家の教育方針に俺が口出す義理はないしな……。
「あり得るよ。なにせ、うちは領主からもかなり信頼されてたから。ヒューイ家出身の兵士はまさに、百人力だってね」
「……つまり、テディもジジイに引き取られることがなけりゃ、その領主の所に働きに出てたんだな」
「そだね」
ベンチに深く腰掛け直し、テディはぷらぷらと健康的な脚をばたつかせ、青く晴れた空を見上げた。
「正直、うちの領主はあんまし好きじゃなくて。女は役立たずだ! って公衆の面前で豪語するんだもん」
「そんなこと言うのか!?」
なんて領主だ! 顔が見てみたい! と言いかけたが……。
「……ひょっとして、おまえってアガタ国出身か?」
「てへ、やっぱ分かっちゃう?」
「……俺の知る限り、そんな領主は一人しかいないから」
もちろん、悪い意味で、だ。




