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「あ、公子様はこっちこっち」
食事の後、シャリーらについて釜のある部屋へ向かおうとしたら、後ろからテディに服の裾を掴まれた。
「あたしはお薬作らないから。今日一日、羽を伸ばしてもいいってさ」
「作らないのか?」
一応、サラン以外は全員薬作りを任されたようなんだが……。だが、テディは肩をすくめて首を横に振った。
「あたしの腕前は知ってるでしょ? あたし、薬に関してはぜーんぜんダメだから。逆に姉様たちの足を引っ張っちゃうわ」
「……謙虚なんだな」
「それくらいは自覚してるって」
さてと、と表情を一転、にっといつもの笑顔を浮かべるテディ。
「そんじゃ、今日一日はあたしに付き合ってもらうから。このセオドア・ヒューイの隅から隅まで知り尽くしてもらうわよー」
「……はは、楽しみにしてるよ」
正直、テディについてはいろいろ聞きたいところもあったんだ。ある意味、五人姉妹の中で一番謎が深いとも言えるんだし、彼女について聞いておかないとな。
「……で、これから何をするんだ?」
「そうねぇ……あんたの馬、いるじゃない」
「馬? クロウのことか」
クロウなら、ここ数日間もちょくちょく手入れをしている。俺が忙しい時や倒れている時はサランが世話をしてくれているらしく、毛並みやエサの量も申し分なかった。だが、最近乗り回すことはできていない。屋敷にいた頃は、敷地内にそこそこ広い馬場があって、天気のいい日にはクロウをそこで自由にくつろがせていたんだが、なにせこの家出はそんな敷地はない。ずっと、厩舎に繋がれていたんだ。
「ひょっとしておまえも、馬について詳しいのか?」
「サランとはまた、分野が違うけどね」
首を傾げる俺を戸口へ引っ張りながら、テディは説明する。
「言ってなかったと思うけど、あたしはそこそこ名の知れた武家出身で。軍馬の扱いも習っていたから、戦闘用の馬術の心得ならあるのよ」
「……そーいえば、そんなことをリンリンが言ってたな」
騎士団に入るつもりだったとか、魔力を持って生まれたことが驚きだったとか。
「でも、当然サランは軍隊の訓練を受けた訳じゃないし。あの子は、荷馬車用や遠乗りに適した馬の扱いは慣れてるのよ。軍用の馬と馬車用の馬は装甲からして違うって、あんたも知ってるでしょ」
「ああ。軍馬は重い鎧を着た騎士や、重厚な馬具を乗せても動じない訓練を受けているし、荷馬車の馬は重い物を引っ張る力や足腰を身につけてるんだ」
「そゆこと」
言いつつ、テディは厩舎の前まで俺を連れてきた。
「で、うちにも当然馬は必要だし、とりあえず二頭いるの。あたしのと、みんなのね」
「……だからクロウが入れられてた時には先客がいたんだな」
「そ」
クロウはしばらく体を動かしていないためか、嫌々するように首を振って鼻を鳴らしてきた。そりゃそうだよな。あっちでは、乗り回すことはないにしろ比較的自由に馬場を走らせてたもんな。
「じゃあ……何だ、今日は遠乗りでもしようってのか?」
「そんな感じね」
テディが手綱を取ったのは、厩舎の奥に控えていた小柄な馬。男である俺や、俺の相棒クロウからすれば小さな馬なんだが、足腰はがっしりしていて毛並みもなかなか。貴婦人が乗馬するためだけの馬じゃないってことは見ただけで分かった。
「……こいつも軍馬なのか?」
「血筋としてはね」
クロウも出すよう顎で示し、テディは小柄な馬の鼻面をそっと撫でた。
「うちの家で生まれた子なの。両親はすごく優秀な軍馬なんだけど……残念ながら、この子は生まれつき体も小さくて。あたしが乗る分には構わないけど、とてもとても、戦地へ送り出せるような体じゃないから」
確かに。クロウと肩を並べて厩舎から出してみると、随分小さかった。クロウはもちろん乗馬用の馬だが、それよりも小さい。
「この子、アマンダ。女の子よ」
日の元へアマンダを出し、テディはにっこり笑う。
「手入れだけは欠かしていないんだ」
「そのようだな」
雌馬だったのか。クロウは小柄な同僚を見、不思議そうに首を捻っていた。ここ数日同じ厩舎にいたとはいえ、顔を合わせるのは今が初めてだもんな。




