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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
5日目 結婚候補? いいえ、戦友です
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 キッチンにはサランを除いた全員が集合していて、テディが朝飯を作るのを待っていた。どうも苦戦中らしく、隣でリンリンからのサポートを受けながらでっかい肉の塊と格闘している。

……それ、俺たちで食うんだよな? 本当にでかくないか?


 姉妹たちやジジイに軽く挨拶し、俺はいつもの席へ着く。

「むっ……サランはどうした。まさか貴様、テディと特訓の後、興奮冷めないその体でサランに乱暴を働いたというのか……」

「じいさんは黙っててくれ」

 顔を突きつけて唾を飛ばしてくるじいさんの額を押しのけ、ほぼ真正面に座るユイに目を移す。

「おはよう、ユイ。昨夜はありがとな」

「喜んでいただけたようで何より」 ユイは妹の調理風景を逐一メモしつつ、応える。この際、「なんと! 貴様、昨夜はユイにまで手を出したのか!」と騒ぎ立てるジジイは一切、無視だ。

 昨夜の読み聞かせ、あのおかげでよく眠れたと言ってもいい。だが……。


「……あの朗読、何か手を加えていたのか?」

 俺の問いに、珍しくもユイはぴたりと動きを止めて目を上げてくる。

「手を加える……具体的には?」

「うーん……何らかの魔道が込められていた、とか?」

 言葉を選びつつ言うと、ユイは一度、シャリーと顔を見合わせ……興味深げに目を輝かせて身を乗り出してきた。

「私としては特に……ということは、何らかの効果があったのですね」

「まあな。ちょっと懐かしい夢を見たんだ」

 どむ、っと肉がまな板の上で跳ねる音が。今日の肉はいつぞや食べた×××じゃないことを祈ろう。

「どこかの草原で……俺はまだこんくらい小さくて。夕暮れ時の草原を走り回ってたんだ。花を摘んだりして……」

「それは、アーク殿の過去、で間違いないのですか?」

 ユイの問いに、俺はしばらく考えた後、頷く。

「多分な。考えてみれば何となく、デジャブみたいなのもあるし。でも今までそんな記憶すっかり忘れていたから。てっきり、ユイの朗読に何か作用でもあったのかと思ってな」

 何か言いたげに、俺の隣のシャリーが目線を寄越してくるが……すぐに反らされた。ジジイも、一つ鼻を鳴らして不満げな表情をしつつ、俺の様子をうかがってくる。なんとなく、キッチンに立つ二人もこっちの言動に意識を寄越しているような……。


 しばらく逡巡した後、ゆっくり、ユイは口を開いた。

「そうですか。そのような効果があったとは……。まあ、私が昨夜読んだ絵本にも、そのようなシーンがありましたので。私の朗読を聞いて、記憶の引き出しに仕舞われた幼少期の思い出が蘇ったと言っても、間違いではないでしょう」

「そういうこともあり得るのか?」

「まあ、魔道とはまた違った観点にはなりますが、なきにしもあらず、でしょう。人の脳はまだ、解明されていない謎がたくさんありますので」

 珍しくユイは端切れ悪く言葉を締めくくり、すっと目線を落としてクリップボードへの書き込みを再開した。多分、今のやりとりをメモしてるんだろう。

 隣のシャリーも、可愛らしく小首を傾げてきた。

「不思議なこともありますのね。その夢は、あなたにとって幸せな夢だったのでしょう?」

「そうだな。久々に屋敷から解放されて、思いっきり草原を走り回ってたから。幸せだったな」

 そう返すと、「夢とは未知数の存在ですね」と思慮深げにシャリーは言い、それと同時にくるりと、お玉を手にしたテディが振り返った。

「それよかさー、姉様。なかなかお肉が煮えないんだけど」

「またですか」

 どこか呆れたように言うシャリーだが……おいおい、おまえが言えたことか? 俺はまだ、×××のブイヤベース(仮)を忘れてはいないぞ。


 さと、ユイも席を立ってリンリンの援護に回る。さしものリンリンも、巨大な鍋でぐつぐつ煮える肉塊を前に難しそうな顔をしていた。

「テディ……もう少し細かく切るべきだったんじゃない?」

「でも、しっかり火を通せば食べれないことはないのよ、姉様」

「かといってこれは大きすぎますね。私たちの口どころか、頭くらいの大きさではないですか」

「大丈夫! 食べる時にはナイフ使うし、しっかり中まで煮るから!」

 そういう問題か? そういう問題なのか??


 肉塊にしっかり火が通ってきた頃にサランも戻ってきて、いつもより遅い朝食を始めることになった。

 見た目に違わず、味もワイルドな肉だが、まずくはない。士官学生時代、遠征実習先で食べた肉の丸焼きとよく似ている。

「いわゆる男の料理だな」

 俺の感想に、テディは不満げに小さな唇を尖らせた。

「えー!? なにそれ、性別混同しないでしょー」

「いや、でもサイズはでかいし、調理方法もワイルドだし……」

「そんなこと言って、公子様は料理できるの?」

「……できなくはないと……思う」

「あっやしー! そんな人に言われたくないわよー」

 ぷんぷん、と肉に豪快にナイフを入れ、そのままフォークを突き立てるテディ。おお、口もでかく開くんだな。握り拳大の肉を一口で平らげたぞ。

「師匠、今日の予定はどんな感じですか」

 口元を紙ナプキンで拭いながらリンリンが問うと、スジだらけの肉と格闘していたジジイは咀嚼しつつ顔を上げた。

「うーむ……昨日の古文書の件で、もう少しサランと個別対応を取りたくてな。あと、また薬の注文が入ったわい……すまんがシャリーたちは注文の品を片付けてくれんかの」

「おやすいご用ですわ」

 あっという間に肉を平らげ、シャリーは行儀よく答える。

「昨日の昼前、ポストを見ましたらあふれ返らんばかりにお手紙が詰まってましたの。まったく、貴族は手の込んだことをしますわね……」

「まったくだの」

 ぎりぎり肉を切りつつ、ジジイは同意する。こいつら、本当に貴族に対していい感情を抱いていないんだな。中には貴族出だったり王族もいるようだが……今のこいつらの感覚は庶民そのもの、ということか。

「では、シャリーたちは薬の制作。サランはわしと一緒に古文書の読解じゃ。それでよいかの」

 問題ありません、と頷く弟子たち。本当に、こいつらはよく働くんだな、と内心感心したりした。

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