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「アーク様!」
名を呼ばれ、重い目を持ち上げた。それだけでも億劫だが、呼ばれたからには返事をせねば。
この、ちょっと低めの声は……。
「……サラン?」
「何をなさってるのですか!」
さくさくと、草を踏みしめる音。眼球だけそちらへやると、エプロンスカート姿のサランが駆け寄り、俺を見下ろすようにしゃがんでいるところだった。
「朝早くからこんな所で寝て……さては、テディ姉様の特訓に付き合わされたのですか?」
「……いや、自発的に……」
今気付いたが、俺の声は酷く枯れている。のどもいがらっぽく、一言一言言うたびに奥の方がざらざらと痛んだ。
サランもそれを察したのだろう、目を丸くして首を横に振った。
「無謀です……姉様はこの国の誰よりもお強いのに。それに、汗だくでこのような場所で寝られるから、風邪を引くのですよ」
「……風邪か」
つまり、のどが痛いのはのど風邪のためってか。そりゃあ、朝冷えのする中、汗だくで野宿すればこうなるわな。
でもって、無様に寝転ぶ姿をサランが発見したと。……何かここ数日、サランには格好悪いところしか見せていないような……。
サランは自分のベルトに下げていたタオルを引き抜き、乾いた汗の残る俺の顔をタオルで拭ってくれた。あっ、いい匂い。
「……立てますか? ご飯の前に、一度汗を流すべきです。お召し物も着替えて、清潔にしなければ」
「……そうする」
幸い、体力はそこそこ回復してきていた。若いっていいね。
サランの手を借りて、起き上がる。俺の服に付いた草を払い、サランは気遣わしげに俺を見上げてきた。
「姉様も少し、やりすぎな点があります。今後は、無茶なことを言われても言い返すようになさってください。体力の点では、誰も姉様には勝てませんから」
「……肝に銘じておく」
サランに支えられながら風呂場へ向かい、一度湯浴みする。頭から湯を被るだけで、さっきまでの疲れがかなり吹っ飛んでいった。
「もうすぐ朝ご飯です」
俺が湯から上がると、汗だくになった俺の服を流しで浸けおきしながら、サランは言った。
「この服は洗濯しておきますので、先にキッチンに行ってください」
思えば、ここ数日サランが皆の洗濯物をしているように見える。朝はよく、洗濯物籠を持っているし、一番下だから仕事も多いんだろう。
そんな彼女にまた新しい、雑用をさせてしまったのか。
「いや、悪いからいいよ。洗濯なら俺がする」
「大丈夫です、私の仕事なので」
差し出した手をやんわりと断り、サランは微笑んだ。
「アーク様はお疲れでしょう、しっかり朝ご飯をお食べくださいね。テディ姉様の料理は大胆ですが、とっても力が付きます」 そこまで言われれば無理に押し切ることもなかろう。サランには感謝の言葉を述べ、俺は一足早くキッチンへ向かった。




