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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
5日目 結婚候補? いいえ、戦友です
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 テディを一旦帰し(また、窓から出ていった)、服を着替えて俺は階下に降りる。ジジイやシャリーたちは当然、寝静まっているから音を立てないよう、そっと階段を踏んで下りた。足音を忍ばせる練習も、こういう時に役に立つんだな。

 外に出ると、庭の真ん中で体ほぐし運動をしていたテディが明るく声を掛けてきた。

「や。公子様が筋トレマニアだって、姉様から聞いたよ」

「マニアじゃない」

「でも、これであたしも特訓仲間ができたわ!」

 伸びをしていた腕を下ろし、嬉しそうに笑うテディ。髪も短くて今の格好もランニングシャツに短パンという姿のテディだが、笑えば年頃の少年……いや、女の子に見えた。

「姉様もサランも、こういうことしないから。シャリー姉様やリンリン姉様は美容と健康のために運動するらしいけど……木刀振ったりバール持ち上げたりはしないって」

「そりゃあな」

 あのシャリーらが鋼鉄バールを持ち上げるようなら、俺はいろいろと考え直すぞ。

「確かに姉様の運動方法も悪くないのよ。でも、ラジオ体操だけだとどうしても筋肉が不満を訴えるのよ。だから、こうして朝早いうちから一人で特訓してたの」

 らじおたいそうについては、もう突っ込まないことにした。

「……確かに、二人でする方が効率がいい運動もあるからな」

「でしょでしょ?」

 腕をブンブン振り回し、満足げにテディは頷く。

「というわけで今日一日、公子様にはあたしの筋トレに付き合ってもらいまーす。泣き言は許しませーん」

「……言ってくれるな」

 どこか小馬鹿にしたようなテディの言い草が、俺の闘争心に火を付けた。どう見ても、テディは俺より年下だし、腕も足も細いし、なにせ女だ。こいつの訓練に付き合ったくらいで泣き言言ってたまるもんか!

「俺とて、士官学校では武術部門でかなりの好成績を収めていたんだ。テディに負けるほどやわじゃないぞ」

「それは、競いがいがあるわね」

 腰に手を当てて笑うテディ。俺より小柄なのに、異様に威圧感のある出で立ちだ。

「じゃあ、あたしの特訓メニュー開始よ。どこまで付いてこれるかしら?」

「望むところだ」

 ここは一丁、格好いいところを見せてやろう!

 シャツの腕をまくり、俺はテディに余裕の笑みを浮かべてやった。



 ……で、結果はというと。

「……ぜえ、はあ……」

「おおい、公子様?」

「ま、待て……さすがに、息が……」

「えー、もうだめなのー?」

 俺がへばっている間も、テディは余裕の表情で素振りをしている。言っておくが、いつも使っていた木刀じゃないぞ。鋼鉄を使った、激重の模造剣だ。つま先に落とせば足の指の骨が一瞬で砕け散るだろうそれを、テディはブンブン振り回している。

「まだ半分も終わってないのにー」

「まじかよ……」

 腹筋腕立てランニング、取っ組み合いに素振りに逆立ち。

 聞くだけなら容易いもんだが、その充実度が半端ない。腹筋は数百回だし、取っ組み合いは本気で殴りかかってくるし、逆立ちで一時間歩けだし。

「これから、素振りを終えたらエアーボクシング、瓦割りに跳び蹴り練習と続くのに」

 何だその競技は。筋トレというより格闘技じゃないか!

 テディに負けるのは屈辱だし、俺の横に転がってる鉄剣を持ち上げたいのは山々なんだが……なにせ、体が追いつかない。体力には自信があったのに、なぜここまで差が出てるんだ……。

 汗だくの俺に対し、テディは一切汗を流していない。こいつ、汗腺大丈夫か?

「なによー、あたしには負けないんじゃなかったの?」

「……もちろん、そうだが……」

「……ふーん、でもまあ、いっか」

 素振りを止め、ぽいっと鉄剣を庭に放るテディ。ズムッと、鋼鉄の塊が地面にめり込んでいるぞ。

「思っていたよりは頑張ったじゃない。前、お城の兵士長と力比べも兼ねて特訓したんだけど……公子様より早くばてちゃって。勝負にすらならなかったわねー」

「兵士長にも勝ったのか!」

 いや、それは当然か。誰だってこんな鬼畜メニューこなせないって。

 テディは首に巻いていたタオルをきゅっと絞り、未だ立ち上がることができない俺の頭をポンポン叩いてきた。

「まあ、今日は朝ご飯の準備もあるしこの辺で終わりにしたげるわ。公子様もクッタクタでしょ」

「……うい」

「じゃあ、落ち着くまでそこにいていいよ。ご飯ができたら呼びに来るから」

「……うい」

 テディは腰を上げ、鼻歌交じりに家へと戻っていってしまった。疲れた様子は、微塵も、ない。

 敗北だ。まさに敗北だった。

 あいつを甘く見ていたようだ。まさかここまで体力バカだったとは……。

 とにかく今は、何もする気になれない……否、何もできない。

 渾身の力を振り絞って、俯せ状態から身を捻って仰向けに転がる。それだけでゴリゴリと削られていく、俺のHP。

 空は既に明るい水色に染まり、小鳥のさえずりが耳に流れ込んできた。冷たいような、気持ちいいような朝の空気が鼻孔をくすぐり、俺は小さくくしゃみした。

 汗だく状態から一気に体が冷えてきた。だが、残りの体力が1まで削られた俺には何もできない。

 どんどん明るんでいく空を見上げながら、俺は漠然とした敗北感と疲労に身を委ねていた。

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