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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
4日目 被験者Aの受難
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 ユイが自負した通り、今日の夕食はいつになく豪華だった。朝飯が薄味スープで昼飯が一般家庭風の料理。夕食がフルコースなんて、すっごい話だ。

 シャリー以下姉妹やジジイもユイの手料理には目を丸くしていた。「こんな豪華なユイのご飯なんて、見たことないですね」とシャリーは感嘆の声を漏らしていた。

 口々にユイの一級料理を賞賛する姉妹やジジイ。エプロンを外したユイも、まんざらでもなさそうに少し、笑った。



 その後、湯を貰おうと風呂場に向かったら案の定、「お背中流します。ついでに、筋肉を見せてください」とクリップボード片手にユイが迫ってきた。昼間での俺なら絶叫して逃げ回っただろうが、今は何となくユイの(言い方は悪いが)取り扱い方が分かってきたので。

「その気持ちは分からなくもないが、それよりも、俺が風呂に入るのに掛かった時間や、湯浴み前後で何が違うのかとか、その辺をチェックしてほしい」と申し出ると驚くほどあっさりと、ユイは引き下がってくれた。筋肉より、そっちの方が研究価値があると判断したのだろう。なにせ、俺の起床時間はもちろん、便所に行った回数やその内容まで詳細に記してるんだもんな……。

 あ、ちなみにさっき、クリップボードを見せてもらったんだ。こっちがドン引きするほど詳細に、今日の俺の一日の行動が記されていたんだ。まさか、便所まで尾けれていたとはな……。あいつの探求心には、呆れや驚きを通り越して感服するよ、まったく。


 風呂から上がったら、厩舎のクロウの体調をチェックして一日の活動は終わり。姉妹たちやジジイに夜の挨拶をして(なぜかジジイには険悪な目で睨まれた)、自室に上がる。

 もちろん、俺の背後には影のようにユイをくっつけて。


「今日一日、どうでしたか」

 なぜか俺より早く部屋に滑り込んだユイはベッドに腰掛け、問うてきた。

「どうって……そうだな、俺もユイと話すのも悪くないと思えたな」

「それは光栄です」

 珍しく、ユイは腕にクリップボードを持っていない。代わりに、少しだけ古びた本を右腕に抱えていた。

「それは?」

「これは、先ほどもお話ししました、私の幼なじみの一人です」

 言い、ユイは俺にその本を見せてきた。色あせた表紙に、かすみかけた題名。かろうじて読めるそこには、「みどりのくにのマール」と書かれていた。

「あ、それって有名な絵本だな」

「アーク殿もご存じでしたか」

「ああ、眠れない夜は母がよく読んでくれたんだ」

 ……もちろん、こーんなに小さい頃に、な。

「それはユイが持っていたのか」

「はい。母様が譲ってくださった、数少ないプレゼントでもあります。小さい頃からずっと、暇さえあれば読んでいました」


 そこで一旦、ユイは口をつむぎ……すっとベッドから立ち上がった。

「私がアーク殿にこの絵本を読んで差し上げましょう。私、朗読には自信があるので」

「ユイが?」

「お嫌でしょうか」

 そう言い、ユイの目がわずかに細められた。夕方に見た細目方とは違う、憂いを帯びた眼差しだ。

「いや、嫌なわけない。俺も久しぶりにその絵本を読んでもらいたい心境だし……頼もうか、ユイ」

「ありがとうございます」

 ユイはベッドに腰掛けた俺に向き直り、慣れた仕草でぱらぱらと古びた「親友」をめくった。

「では。眠くなりましたら、お気になさらず寝てください」

「……ありがとう」

 途中で寝るつもりなんて、微塵もないが。

 ユイは目元を緩め、本を左腕に抱えるとひとつ、咳払いした。

「……むかしむかしあるところに、みどりにかこまれたうつくしいくにがありました……」



 その日の晩は、森に囲まれた辺鄙な一軒家には、絵本を読む優しい声が響いていた。偶然その森の近くを通りがかった旅人は、どこからともなく聞こえてくるその声に、ふと、立ち止まって懐かしさに胸を揺すぶられたという。

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