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そそくさとサランが立ち去った後、正座状態を解除する気にもなれず、俺ははあっとため息をついた。
この家で過ごすようになって今日で四日目だ。(ほぼ)女ばかりの住居に放り込まれて早四日。それなのに「嬉しい」と思う以前に「厄介だ」と思っている自分。てっきり、この家の女どもの個性が強すぎるゆえの感情かと思っていたが、ひょっとして……。
「アーク殿は極端に、女心に疎いのですね」
ずばり。効果音がつきそうなくらい的確に、ユイが俺の思っていたことを代返してくださった。
のろのろとユイを振り返り見ると、俺の方には視線を寄越さず、書き物をしながら淡々と言ってきた。
「ここ数日アーク殿はうっかりの一言が多いような気がします。自分の一言が引き金となって姉様方や妹たちが予想もしなかった行動を取っていると。あなたは思春期を士官学校で過ごされたそうで。それはつまり、異性たる女が恋しい季節に男ばかりのむさ苦しく暑苦しい場所に引きこもっていたということです。しかも士官学校の規律は厳しいため、女性との逢瀬や女遊びは御法度。そのような状況下では、女心を察せる以前に男性に対して恋愛感情を持ってもおかしくないくらいであって」
「それはない」
「つまり、男女についての心が形成される時期に女性と触れあう機会の少なかったアーク殿は年頃の女心の動きが読み取れず、この家で過ごすようになってその弊害が発揮されたのです。無論、士官学校で男と女についての教育が為されなかったわけではないでしょう。ですが、理論より実践。いくら授業で女について学ぼうと、外に出て女性と接しなければ知識は知識のまま蓄積されて無駄知識となってしまいます。特に、アーク殿のようなヘタレに関してはいっそう、その傾向が顕著に表れています」
「ヘタレは余計だ」
「ということで、この家のどの娘と婚姻を結ぼうと、女の心が理解できぬまま妻を持つのは私からしても、お勧めできないことであります。結婚するということはつまり、男と女として密接な関わりを持つということ。特に、××××の時にはその弊害は大きな障害となるでしょう」
「おい、放送禁止だろ!」
「あなたとて、××××する際に女性から愛想を尽かされたならば少なからずショックを受けるでしょう。それが元で不仲、そして離婚へと繋がっていくケースも、全国津々浦々に存在します。ですから、アーク殿には今のうちから女の心の動きに敏感になる心構えを身につけ、私を含めた五人のいずれを妻に迎えようと、その後の夫婦生活に支障が来されないよう、気を配ってほしい次第であります」
……ようやく終わったか?
あー、長かった。やたら回りくどい言い方だし堅苦しいから、士官学校の鬼教官を思い出した……あの頃もよく、地べたに正座させられて説教食らったなぁ……。
「理解はできましたか、アーク殿」
「あー、そうですね。よく分かりました。つまり俺はもっと女心に敏感になるべきだと」
「すばらしい要約能力ですね」
すくっと立ち上がるユイ。俺と同じ時間正座していたとういのに、こいつは足は痺れていないようだ。
「では、アーク殿の観察を続けることにしましょうか。あなたの女心察知能力向上のためにも、このユイ・イライザは全力を持って協力致します」
……なんだか気になる言い方だけど、俺のことを思っての行動なんだろう。もちろんユイの観察精神が一番の動機だろうが、出される行為はありがたく受け取るのが紳士の心構えだ。
「……分かった、じゃあよろしくな、ユイ」
「お任せを」
と、格好良く立ち上がろうとしたら……足が痺れていて、膝が折れてその場にばったりと倒れ込んでしまう、俺。
その状況を目の当たりにし、ユイが光の速さでクリップボードを召喚して記録を始めたというのは言うまでもなかった。




