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ちくちくぬいぬい。
丁寧に針を動かすサランの前で、俺とユイは正座していた。
あの悲劇の直後。謀ったかのように参上したサラン。郵便受けから手紙を取ろうと表に出たら、ズボンを引き裂かれた男に、ズボンを引き裂いた姉がいて。
「姉様も、さすがにやりすぎです」
「アーク様、姉様が迷惑をかけました」
と妹からお叱りを受けたユイは、俺の隣で同じく正座しながら、やはりなにやらクリップボードに記入していた。こりないな、こいつは。
で、なんで俺まで正座しているかというと。
「あなたはサランに、見苦しい姿をさらしました。かわいそうなサランに謝りなさい」と、訳の分からない説教をユイから受けたためだ。
俺は、何一つ悪いことはしていないぞ。ズボンを破られてサランに見苦しい姿を見せたのは確かだが、百パーセント、悪いのはユイだけだろ!
だが、こうしてズボンを縫ってもらっているのも確かなので、おとなしく正座して待つことにした。
ちなみに、サランにズボンを直してもらっている間、俺は替えのズボンをはいていた。上着とは色が合っていないが、致し方ない。
「はい、できましたよ」
糸切り歯で残りの糸を切り、サランは俺にズボンを差し出した。
「なるべく目立たないように縫ったのですが……どうですか?」
言われ、ズボンを持ち上げて目の前で広げてみると……。
さすがだな。ユイによって無惨に引き裂かれたはずの裂け目はきれいに縫い繕われており、縫い目さえきれいに隠れている。
「ありがとう、サラン。将来はいい嫁になるだろうな」
なーんて言葉が、ぽろりと出てしまった。
あ、まずい。今のは褒め言葉のつもりで言ったのに、なんだかこの部屋の空気の温度が一気に下がったぞ。
目の前のサランはとてつもなく微妙な表情をして、隣のユイは「おお」と歓声を上げてペンを動かす速度を上げている。ちらと横目で見てみると、「部屋の温度が十二度低下。これも何らかの魔法によるものなのか」との走り書きが。
「……そ、そうですね。アーク様にそう言っていただいて光栄です」
と、ちっとも光栄に思ってなさそうな顔で言うサラン。くっ……時が悪かったな。嫁選び週間の最中にこんなこと言ったら、複雑だよな。しかも今日はユイの日だし。
「……いや、悪い、サラン。からかったつもりではないんだ……」
「承知してます」
にっこりと、どこか無理をしているような微笑みを浮かべてサランは答え、テーブルに広がっていた裁縫セットを手早くまとめだした。
「では、私の用は終わったことですし、失礼させていただきますね。姉様、今日の講義についてはご存じですか?」
最後のみ姉に向けて言うと、ユイは手を止め、こっくり頷いた。
「もちろんです。古文書の解読ですよね」
「はい。昼過ぎから書物庫で行いますので、よろしくお願いしますね」
「了解です」
再び、クリップボードに目を落とすユイ。妹と会話している間は物書きの手を止める点については、評価してやりたい。




