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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
4日目 被験者Aの受難
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「姉様から伺いました。アーク殿は、毎朝健康のため、体作り運動をなさるとか」

 お世辞にもうまいとは言えない食事が終わり、ほっと息をついたのもつかの間、ぬっと背後から赤い塊が迫ってきて俺は思わず、イスをひっくり返しそうになった。後ろ二本立ちしていた俺にも非はあるが、いきなり出てくるユイも褒められたもんじゃないぞ。

「昨日は姉様が見学なさったとか。本日は私が見学してもよろしいでしょうか」

 くいっと角縁メガネを指で持ち上げて問うユイ。口調こそ丁寧だが、言葉の裏には「まさか断るだなんて破廉恥な真似はしませんよね」と言わんばかりな心の声が見え隠れしていた。

「あ、ああ。構わないが」

 ほぼ反射的に諾すると、ユイは鼻の頭に指を当て、左腕に抱えていたクリップボードを持ち直した。

「それでは参りましょう。姉様曰く、まずは国民的運動ラジオ体操から取りかかると……」

「……それはしない」

 だから、そもそもらじおたいそうって何なんだよ。


 いつものように、家の周りを十数周走って、玄関ポーチに腰掛けていたユイの前に戻る。ユイは腕に例のクリップボードを抱え、俺が走っている間もずっと、カリカリとペンを走らせていた。

 走っているだけなのに、そこまで記録する内容はあるんかな……?

 昨日のリンリンとは違い、ユイは俺が練習メニューをこなしていても、アドバイスやコメントを寄越したりはしなかった。ただ黙々とペンを動かし、時折観察するような目で俺をじっと見つめるだけだった。

 剣に見立てた木刀で素振りをし、腕立て腹筋、その他諸々をこなし……。

「終了ですか」

 最後に軽く逆立ちで庭を回った後、すっくとユイが立ち上がった。俺は逆立ち状態から直り、手をはたいて頷いた。

「ああ、観察していて楽しかったか?」

「そこそこですね」

 そう言い、ユイはすたすたと俺の目の前まで歩み寄ってきた。

 ……さすがに汗くさいだろうから、逆に俺は一歩後退する。

 すると、その間を埋めるようにユイはまた、一歩近づいてくる。


 ユイだってかなりの美人だ。こんな美人が近くに寄ってくるのは嬉しいんだが……だが、感情の見られないユイの緑の目が気になって仕方がない。俺を見ているというより、俺を通して、宇宙の彼方を見つめているような……。


「では、脱いでください」


 今、何と言った?

 ユイの目に気を取られていたため、うまく聞こえなかった。うん、聞こえなかったんだ。


 ユイを凝視すると、逆に心外そうに彼女は俺を見上げてきた。

「服を脱いでください。運動後の男性の肉体を観察することも貴重な経験です。動悸の様子や血管の浮き出具合、発汗量など、検査しなくては」

 そう言うが早い、ユイの細い腕がにょっと伸び、俺が着ているものにつかみかかってきた。


 いやいや、待て待て!

「ちょっとタンマ、ユイ!」

「なぜですか」

 言いながら、俺の服を引きちぎらんばかりに引っ張ってくる。こいつの姉弟子といい、この家の女は怪力持ちなのか……?

「いきなり服を脱がせようとするな! いや、上だけならいいんだ!」

 上半身くらいならさらしても仕方がないとは思っている。だがな……ユイが掴んでいるのは、俺のズボンなんだ!

「赤の他人の女に下半身さらす馬鹿がいるかっ!?」

「何を今更。昨夜、姉様にも全裸を暴かれたのでしょう」

 暴かれてない! 断じて、暴かれていない! あれは、未遂だ!!

「んなわけないだろ! というかおまえ、昨日のを見ていたんか!」

「いえ、姉様から伺いました」

 あ、あの爆乳め! やっぱり俺をからかうつもりだったのか!


「さあ、これから深い付き合いになることですし。遠慮なく、観察させていただきますね」

「ふざけるなーーー!」




 びりっ


 俺の運命を変える、嫌な音がした。

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