3
今日の食事当番はユイだ。顔を洗ってキッチンに入ると、ほかほかと暖かな蒸気が部屋中に立ちこめていた。食卓には、既に真っ赤なスープの注がれた器が並べられていた。
「あら、おはようございます」
一番にシャリーが俺の存在に気付き、笑顔で手を振った。
「今日は目覚めもよろしいようですね」
「まーな」
イスを引いて、いつもと同じ、シャリーとジジイの間の席に座る。ジジイは俺の方を胡散臭げに眺めた後、ふいっと顔をそらした。相変わらずよく分からんじいさんだ。
「さあ、全員席についてください」
ミトンを外してユイは声をかけ、姉妹全員が指定席に着いたのを確認して、再びクリップボードを取り出した。
「今日の朝食はトマトスープです。遠慮なく、どうぞ」
トマトスープか! 俺、結構トマトが好きなんだ。士官学生時代は家庭的なものをよく食べたから、トマトのスープは好物だ。
トマトはいいぞ、丸まま焼いても、絞ってもうまい。今日のスープも真っ赤でうまそうだ。
「よし、それじゃあいただきます!」
渡されたスプーン片手に、スープを掬って一口。
うむ、濃厚なトマトの香りが……。
しなかった。
「……あれ?」
もう一度、掬ってのどに流し込む。おかしい、全く味がしないぞ。
それは俺以外の者も皆同じ感想らしく、一様に首を傾げたり眉をひそめたりしている。
「ユイ、今日はいつも以上に変な味ね」
リンリンが正直に感想を述べ、ぐるぐると赤いスープをスプーンでかき混ぜる。
「一体トマト何個使ったの?」
「そうですね……七人分で約十個は使いました」
十個!? トマト十個使ってこの味か!?
「妙ねー……トマトの欠片も入ってるのに、味がしないわよ、姉様」
テディも、トマトの肉片を掬って不思議そうな顔をしている。ジジイも一口スープを口に運び、すぐにげんなりした顔でユイを見た。
「ユイ……さては、また例の実験料理かの?」
え、実験料理?
対するユイは悪びれることなく、ひとつ頷いた。
「先日、新しい技法を編み出しましたので。どれほどの食材を入れようと、全く味がしない料理が作れる。栄養素はそのままなので、食べる分には全く影響がありません」
栄養はそのままで、味がしない……ううむ、確かにすごい料理かもしれない。
でもよ。
「いくらなんでもこれは食べてもうまくないぞ……味が薄いって以上の問題だし」
だって、これだけ真っ赤なんだ。水で薄めたわけでもなかろうし、どうやってここまで素材の味を潰すことができるんだ……。
だがユイは周囲のブーイングに構うことなく、黙々と皆の反応をノートに記している。
「なるほど、研究は成功のようです。皆様、ご協力ありがとうございました」
くそっ、こいつ、姉妹や師匠を実験台にしたんだな!?
だがこのことは日常茶飯事らしく、俺以外の面々は「今度はまともな実験にしてよ」「せめて事前に言ってくださいね」と口々に言うに留めていた。
とにかく、この無味スープを飲まないことには話は進まなさそうだった。




