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いい朝だ。
頭はすっきり。
体はさっぱり。
外では小鳥のさえずる声が。
久々にまともな朝を迎えられて、俺はベッドの上でううんと背伸びした。
今日はリュートにマンジューを投げられる夢を見ることもなし。朝っぱらから美女に絡まれることも、二日酔いに悩まされることも、なし。
というか、屋敷にいた頃はこれが普通だったんだよな。朝は気持ちよく目覚め、小鳥のさえずりで一日が始まる。だが、へんぴな朝を迎えることに体が慣れつつあることに、一抹の不安も感じていた。魔術師の家、恐るべし。
ギシギシきしむベッドから身を起こし、いつも通り着替え、さて顔でも洗いに降りようかとドアに手を掛けるが。
……人の気配がする。
それも、俺の部屋の前に仁王立ちしているようだ。
昨日一昨日の経験からして、選択を担当しているテディやサランが辺りを歩き回っている可能性は高い。だが、どうもこの部屋の外では誰かさんが、立ちふさがるようにいるようなんだ。一応城では武術や野営の訓練もしたから、人の気配については敏感な方なんだ。昨日のリンリンには参ったけど。
だが、この家にいるのは俺と五人姉妹、それに加えて枯れたジジイが一人だけだ。まさか部屋を出たとたん何らかの呪いを放つわけではなかろうし、命の危険はない……ことを願おう。
とりあえず、状況確認だ。
「……おはよう。誰かそこにいるんだろ?」
ドア越しに声を掛けると、おや? と言う小さな声がした。この声は……。
「気付かれていたのですね、これは計算外でした」
そうだ、この妙に落ち着いた声はユイだ。そういえば今日はユイについて知る日だったか。だからといって普通、部屋の前で待ち伏せするかな。
「ああ、気配を読むことは得意な方なんでね」
「なるほどね……」
カリカリと、何かを書くような音。まさか、記録しているのか?
「その能力は、特訓することで身に付いたのですか?」
「そうだな。フォルセスの士官学校で……敵の気配をいち早く察せるよう、洞察力を高める訓練をしたな」
「それは、実地訓練などもしたのですか」
「ああ、一度だけ。敵に扮した教官から逃げ回る授業だが……なんとか一発でクリアできたな」
「ほう。ということはその教官は鉈や鎌を振り回して追いかけてきたのですか」
「な、鉈や鎌はさすがに持ってなかったが……確か、剣に扮した鉄の棒は持っていた。うっかり捕まったらきつい一撃を食らうんだ」
「ということは、実習生は鉄の棒に殴られるのを防ぐため、必死こいて逃げ回るのですね。その際、教官から身を隠すすべや忍び寄る気配を察する能力が必要になると」
「そういうことだ。一発でも殴られたら不合格だったし、殴られるのは嫌だし、みんな一生懸命だったよ」
「興味深いですね。もう少し、気配を読む能力について伺いたいのですが」
「……それは構わないんだけど」
「何ですか」
「そろそろ、ドア開けてもいい?」




