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「で、さっきも言ったけど今のリャンシ王宮には九十七人の王子王女がいるの。私はどっちかというと年下の方で……一番上のお兄様は今年で五十二才。お姉様は五十一才になられるのよ」
え。リンリンの年で五十二の兄? もはや親子レベルじゃない?
「ちなみに、一番下の妹はもうすぐ五才……やれやれ、お父様も元気なものよねぇ」
一番上と一番下の差が四十七……。リャンシ国王、恐るべし……。
「でもって、当然ほとんどのお兄様やお姉様はご結婚なさってるし、弟妹も大半は結婚してるわ。だから今の王宮は人口爆発でふくれあがってるのよ。そろそろリフォームの時期かしらねぇ」
リフォーム以前にすべきことはたくさんありそうだが……外国人たる俺が口を出す権限もないだろう。
「で、リンリンは王宮ではどんな生活していたんだ?」
好奇心ゆえの質問だったが、リンリンは緑色の液体が詰まったボトルを片手で開け、少し不満げに唇の端を歪めた。相変わらず美人だったが、どこか悲壮感の漂う横顔だった。
「……別に、特に何も。私のお母様は第二百三十七夫人でね……身分はないも同然だったけど、顔がよくって。私はお母様譲りの美貌なんだけど、ただの貧困層の娘が王妃になって宮廷に召し上げられたのも、並はずれた美貌を持っていたから。裁縫もダンスもできない。得意なのは畑仕事。そんなお母様なのよ」
容姿だけで選ばれ、王宮に招かれた娘。これといった特技も、礼儀作法も知らない。
貴族ゆえの鋭いセンサーが、危険信号を放った。こういうパターンはたいてい、後に没落するんだ。古今東西、よくある話だろう。
そして……リンリンの母も、その王道結末を辿ったようだ。
「第二百三十七夫人として召し上げられた直後は……そりゃあ、もてはやされたわ。辺境の蝶、荒れ地の星と称えられ、第一夫人たちを差し置いてでもお父様はお母様を溺愛なさった。でも、それも長くは持たなかったわ」
そう。特技や作法、身分と違って美貌はいつか衰えるもの。リンリンの母がその容姿でもって国王を惹きつけていたのなら、年をとって衰た後は……。
「……あっという間よ。お母様が二十才をこえた辺りから……もう、お父様は来なくなった。お母様は十三才で入内して十五で私を生んだのだけど……かれこれ二十数年間、お父様と会うこともなく……今は王城の隅っこでぽつねんと暮らしているわ」
ぐっと、見えない紐で首を絞められたかのような苦痛が俺を襲った。捨てられる女の気持ちは、俺には一生分からないだろう。それに、リャンシにはリャンシのやり方がある。遠く離れたフォルセスで安穏と暮らしている俺には関係のない話だ。それでも……。
俺の表情が曇ったのを見て取ったのか、リンリンは残った全ての材料を釜にぶち込むとそっと、俺を安心させるかのように微笑んだ。
「なーによ。公子様が暗くなる必要はないのよ。それに……私は師匠に呼ばれてこっちに来てからも、お母様とはちょくちょく連絡を取っているの。お母様、私に魔術師の素質があると聞いてすっごく喜んだの。これでもう、私を縛り付けるものがなくなるって。王宮から出て行かせられるって」
「……」
「それでね、師匠の元で修行して……いつか、自分の店でも開いて経営していきたいの。そしたらお母様を呼んで、一緒に暮らすの。いくらリャンシの国王といえど、魔術師の権力にはめっぽう弱いお父様だから、条件さえあげればお母様を返してくれるはずだから」
そこまで考えていたとは……。今までリンリンを軽く見ていた自分を罰したくなった。




