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改めて周りを見ると、弟子たちは思い思いに薬を作っていた。テディは相変わらず、ジジイと一緒に吹きこぼれた釜を洗っているし、ユイは一人、なにやらぶつぶつ言いながら釜をかき混ぜ、シャリーとサランは世間話に花を咲かせながら材料をすりつぶすなり刻むなりしていて、部屋の中はなかなかにぎやかだった。声に加え、材料を煮詰める釜もグツグツボコボコ沸騰音を立てるので、人数の割にはなにかと騒がしい。
この喧噪の中なら大丈夫かもしれない。
「……なあ、リンリン」
「ノコギリソウをちょうだい」
「あ、はい」
さっき置いたノコギリソウを手渡すと、リンリンは手慣れたようにノコギリソウの花を引っこ抜き、茎の部分だけを細かく輪切りししていった。
「……花は要らないのか」
「ええ。この薬には要らないわ。むしろ、苦くなっちゃうから」
「……そうか」
リンリンは刻んだ茎を包丁で板の端に寄せ、ちらと俺を見つめてきた
「……で? さっき何か言いかけた?」
「あ、ああ」
空いた椅子に座り、止まることのないリンリンの手元を見ながら俺は口を開いた。
「……さっき、言ってただろ。リンリンはリャンシの王女だって」
「そーよ」
ぽい、と刻んだ茎の半分を釜に入れる。
「で、第三十くらい王女って言っただろ」
「正確には三十五ね」
なにやらよく分からない干物を包丁の柄で叩き潰し……ふと、リンリンは顔を上げた。
「……もしかして気になった?」
「もしかしなくても気になるよ」
だって、三十五だぞ? フォルセスじゃあまず考えられないことだ。
リンリンは手を止め、考え込むように尖ったあごに手をやった。
「そーねー……ま、うちの姉妹や師匠はみんな知ってることだし、あんたもこれから長い付き合いになるだろうし。教えてあげてもいいわよ」
「いいのか?」
長い付き合い、ってのは気にかかるが。
「もちろん。そんなに隠すことでもないし」
がたん、とテディが重い音を立てて洗い立ての釜を台座に戻した。あいつはこれから再スタートになるのだろうか。心なしか、ジジイも不安そうな顔をしているぞ。
「……あんたも知っているだろうけど、リャンシは一夫多妻制なのよ」
長い柄の付いた柄杓で釜の中をかき混ぜながらリンリンは言う。中の液体を観察しているため、俺の方には視線は注がれない。
「位が上になるほど持ってもいい妻の数も増えていってね。平民から貴族、貴族から王族になるにつれてゼロの数がいっこ増えていくのよ」
……つまりは、何だ? 平民が九人までの妻をもてて……貴族なら九十九人、王族なら九百九十九人まで可能ってことか?
「私のお父様は特に、女好きでねぇ。妻の数も三桁じゃ留まらないわ。私が知っているのでも……千二百人はいたわね」
「千二百!?」
おいおい、そんなに娶ってどうするんだ!? 宮殿が妻でいっぱいになるだろ! 後宮っていう話じゃないぞ!
俺の驚きの眼差しを受けてか、リンリンは釜から目を離して俺をじっと見た。
「……これも、フォルセスの人間には想像しがたいんだろうけど……お父様の妻は、街中に転がってたわ。王宮に迎えられるのはほんの一握り。お父様の御幸中にすれ違った町娘や、近所の若妻……果ては年端もいかない少女だって、お父様に命じられたら妻にならなくてはならないの」
ま、町娘はおろか、既婚者や幼女まで攻略対象なのか? それって王の権限以上に犯罪なんじゃ……。
いや、国王がするからこそ許されるのか……? 俺には理解できん……。




