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午後は、昨日に引き続いて魔術の授業。だが、どうやらタローのじいさんに薬の注文が殺到したらしい。
ジジイだって、食っていくのに金が必要だ。かといって国に仕えたりするのは「めんどくさい」ので、ちょくちょく薬の注文を受けては家で作っているらしい。
ちなみに、貴族からの注文と庶民からの注文とでは値段が馬鹿にならないほど変えているようだ。貴族の注文には、庶民の十倍以上の値段をふっかける。貧しくて本当に困っている農民には、こっそりタダで薬を分け与えることだってあるそうだ。
……俺の中のジジイ株が今、ぐいっと上昇した。といっても、今までが低すぎたため、これでようやくゼロからスタート程度なのだが。
だが、やはり薬作りでさえ「めんどくさい」らしく、弟子たちの実習もかねて五人に仕事を任せることも多いそうだ。で、今日は溜まりに溜まった注文書の始末。
午前中、三女以下を連れて、薬草学もかねて買い物に行ったのはこのためだったらしい。
薬を作るため、俺たちは昨日の地下室とは違う、居間の隣の部屋に移動した。ここは……まさに「魔術師の家」って感じだった。部屋にはおそろいの薬釜が五つ、正五角形を描くように配置されていて既になにやらぐつぐつと湯気を上げていた。
おおお、何だかすごくそれっぽいぞ?
「では、五人には薬を作ってもらうからの」
弟子五人がそれぞれの釜の前にスタンバイすると、ジジイはローブのヒダからメモ書きらしきものを五枚、取り出し。
「ほれ、穀潰し。さっさと配らんか」
……再びジジイ株は落下した。
「さて、今回はそれぞれのレベルに合わせて問題の難易度を決めているからの。もし分からなかったら遠慮なくわしに聞くなり、木偶の坊をこき使うなりしてくれ」
はーい、と返事する弟子たち。
……くっ、このジジイはやはり、弟子には甘くて部外者(しかも男)たる俺には遠慮の欠片も見せないってか……。
それぞれの製薬状況を観察したいのも山々だったが、今日は何せリンリン担当の日。まっすぐ、彼女の釜の前に移動するとリンリンはメモから顔を上げ、にこっと笑った。
「よかった。私よりユイやサランの方が薬は上手だからー。てっきりあんたもそっちに行くんかと思ってたわ」
「……今日は一日お前に付き合うことになってるんだろ」
もうこうなったら、割り切って全員と平等に・順番に接するのが得策だろう。今回恨むべきはジジイ、並びにうちの脳天気両親だ。弟子五人は……まあ、ある意味被害者なんだし邪険に扱うのもお門違いだろう。
ちなみに、この釜は三本足の土台によって支えられ、釜の底に直火が当たるよう、下方で火が焚かれていた。釜の中に既に入っているのは……どうやらただの水みたいだ。ぐつぐつ沸騰しているが、変わった匂いもしない。ここにいろいろ入れていくんだろうか。
周りを見ると、薬学が苦手なのかテディは既にじいさんの指示を仰いでいる。ユイはもはやメモやレシピを見ることなくスイスイと、部屋の隅の長机に並べられた薬瓶から必要物資を取っている。サランは一拍遅れ、ユイの隣でメモを見つつ物資を選び、シャリーはというと既に材料を自分の周りに並べてなにやら釜の中をかき混ぜている。長女のキャリアは伊達じゃないってところか。
「あ、なんなら私の助手してくれる?」
リンリンに声をかけられ、振り返るとリンリンはメモ片手ににっこり微笑んできた。
「師匠もあんたをこき使っていいっておっしゃるし。いい経験になるでしょ?」
……雑用扱いは気にくわないが、まあ実習に参加できるのはありがたいことだ。
ひとつ、お手伝いすることにした。




