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「! あちっ! 熱いぞ、これ!」
「そりゃそうよ。できたてホヤホヤなんだから」
呆れたように頬杖をついて言うリンリン。
オカユは熱かった。だけど……薄味の中にほのかに塩辛さと酸っぱさが混じっていて……フォルセス流の食事に舌が慣れている俺にとっては意外なほど、身に合う味だった。
「熱いけど……うまいな」
「そうね。本場のオカユはほとんど調味料も入れないから、あんたや姉様たちには合わないと思ったのよ」
フォルセスは味付けが濃いのよねーとなぜか楽しそうに言うリンリン。
俺にとっては、この味が普通だと思ってたんだが……。
「リャンシは薄味の料理が多いのか?」
「まあね」
椅子の後ろ足二本だけで器用にバランスを取りながらリンリンは頷く。危なっかしく椅子が揺れるたびにその立派な胸も揺れて……いや、これ以上は言うまい。
「そもそもオコメ文化だし。こっちで言うスープも、あっちではかなり味が薄いのよ。最初、師匠に連れられてこの家に来たとき、びっくりしちゃったもの。ちょうどシャリー姉様が食事当番だったのだけれど、とっても濃い味で。お水をたくさん飲まないと嚥下できないくらいだったわ」
ん? 問題はそこじゃないような……ま、いっか。
「じゃあ、今は舌も慣れたのか?」
「そうね。毎日のように姉様たちの料理を食べていたら、自然とね。私が料理当番になったらみんな、不思議そうな顔をなさってたから。『これ、味がしない』ってよく言われたわ」
ふむ……リンリンたちリャンシの人間にとっては「普通」の味付けも、俺たちにとっては薄すぎて……逆に、俺たちにとっては適度な味付けはリャンシ人にしてみれば「濃厚」なんだな。
「文化の違いってのはおもしろいんだが……慣れるまでは本当に一苦労なんだな」
「ええ。そもそも私はここに来るまであんまり料理とかしなかったし。普段食べているのも宮廷料理ばかりだったからね、こっちの素朴なシュガーパンには感動したものよ」
……宮廷料理?
「……おい、今宮廷料理って言ったか?」
俺が聞き返すと、逆に驚いたようにリンリンは顔を上げた。
「ええ。それがどうしたの?」
「……おまえ、リャンシではどういう身分だったんだ?」
「王女よ」
さっくりと。「明日の天気は晴れよ」と言わんばかりの口調で。
王女。……王女だって!?
「お、おまえリャンシの王女なのか?」
慌てて居住まいを正す俺。なんだかとんでもない事実を聞いちゃったんじゃないのか!?
傍目から見ても不自然なくらい慌てる俺をよそに、リンリンは何てことなさそうに、既に空になったオカユの鍋を引き寄せる。
「そうよ。といっても……王位継承権なんて欠片もないわ。なにせ第三十五王女だもの」
三十五?
「そう、三十五よ。ちなみに……お父様には息子が四十一人、私含めた娘が五十六人いるの。どっちかというと私は妹の部類に入るのよね。だから私は……三十五女、ってとこかしら?」
けろっと言われた。




