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……それはおいといて。
「……で、その金鉱をどうするつもりなんだ?」
俺は問う。
金鉱が発見されたといっても、まだ金が採れるのか、採れないのかで価値は大きく変わってくる。
というより、俺としては……。
「万が一、金が採れるようでも下手に報告しない方がいいんじゃないか? せっかく片田舎の領地でまったり暮らしているのに、金が採れるとなると大騒ぎだぞ」
メイドが淹れた紅茶をすすりながら意見すると、親父はとたんにばつの悪そうな顔になり、持っていたカップを下ろした。
うん、すごく嫌な予感がする。
「……実はなぁ、金鉱発見者たる旅人は私に報告する前に、使者を通して先に陛下に報告してしまったそうなんだ」
……なに?
ぽかんと口を開いた俺の心境を察したのか、親父はぽりぽりと頭をかいた。
「それでな、その日のうちに調査隊が金鉱へ乗り込んで……最新の技術や魔道で掘ってみたところ、まあ出てくるわ出てくるわ。掘り残された金塊がごろごろ出てきたそうなんだ」
……おい。
「それでもって、陛下は大喜びで。私たちを今後、金鉱保有者として今以上に好待遇してくださるそうなんだ」
……まじですか。
「それで……ほれ、こんなに届いたのだぞ」
ここから本題だ、と親父が秘書から受け取ったのは、ごつい反故紙の固まり。俺にはそう思えた。否、そうであると信じたかった。
「おまえへ宛てた見合い書だ。ざっと見積もって、五十件はあるかねぇ」
重そうにその束を抱え、テーブルの空いた部分に乗せる。置いた瞬間にみしっと音がし、繊細な木製のテーブルが重みで悲鳴を上げた。
待て、待て待て待て!
「ちょっと待て親父」
「何だ」
「それはこっちの台詞だ。一体何のつもりだよ、その見合い書とやらは」
「見合い書は見合い書だろう」
しれっと返す親父。
「おまえには常々言っているだろう。もういい年なんだからいい加減恋人ぐらい見つけろと。もうすぐ二十一になるというのに、おまえは剣を振り回し馬で爆走し、恋のひとつも見つけてないとは……」
「余計なお世話だ」
「おまえは見てくれだけは妻似なのだから、もうちょっとモテてもよいだろうに」
「余計なお世話だ」
「まあ、これがいい機会になっただろう。ちょうど、見合い書もざくざく送られてきたことだし、この中から伴侶を見つけてはどうだね」
「絶対! 嫌だ!」
ずい、と押しつけられた紙束もとい見合い書を突き返す、俺。
だって……この見合い書を送ってきたのは全員、どこぞの貴族だろう? フォード家が無名に等しかった時は名前すら把握せず、フォルセスの社交パーティーでも完全無視してきていた輩が、金鉱が見つかったということで縁談を持ちかけてきたんだ。
死肉に群がるハエのごとく、っていう表現は気に入らないが、まさにその状況だ。
そりゃあ、諸侯どもの気持ちは分からなくもない。さっき説明したように、金塊は物価的な価値はもちろん、魔術師たちに売りさばくこともできる。魔術師は偏屈だったり、人嫌いする者も多いから、金で交渉して、自分の領地に住まわせたり専属魔術師に依頼することだってできるだろう。
で、その手っ取り早い方法は、金ざっくざくの領地へ自分の娘を嫁がせること。
つまり、俺の華やかな独身生活が幕を閉じること。
「嫌だ! 断固拒否する!」
「んーまあ、私も妻も、おまえがそう言うと思って事前に相談しているのではないか」
これは事前相談とは言わない。事後報告だろ!