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俺は潰れていた。
文字通り、潰れていた。
世界旅行をしていた俺の魂はどうにか、本体に戻ってきてくれたのだが……肝心の肉体は既に破滅直前だった。
あっ、俺の名誉と純情のために言っておくが……俺とリンリンには、一切、何も! 起こらなかったぞ! 残念そうな顔をしたやつは、後で職員室に来なさい。
なぜ助かったかというと……またもや、朝のように絶妙のタイミングでその他大勢が割り込んできたのだ。街へ買い出しに出かけていた、ジジイと三女以下三人の女たち。
で、展開はというと朝とそう大差ない。さすがにユイにたしなめられて、リンリンはあの恐ろしいほど放出していた色気を一旦収め、俺から身を引いてくれた。
だがなぁ……一度肉体から離れた魂はそう簡単に戻るもんじゃない。おまけに、最悪な場面を部外者にも見られたってことで俺の精神は限界突破してしまった。
抜け殻となった俺はテディによって三度担ぎ込まれ、またもや自室で寝かされることになったのだ。
で、本心状態の俺はとりあえず、フォルセス城にいるだろうリュートに生放送を頼んだのだ。これで大体のことは分かっただろう?
「ほら、今日の昼ご飯よ。病人もいることだし、なるべく胃に優しいものを作ったわ」
それ、誰のせいだと思ってらっしゃるのですかい?
片手鍋を持って部屋に入ってきたリンリンを見、俺はそう思った。
いつの間にか時間は過ぎていたらしい。リンリンが手にしている鍋の中には、今日の昼飯が入っているのだろう。で、当番制からしても調理者はリンリン。
「これもマンジューと同じように、うちの伝統料理なのよ。基本的に病人食なんだけど、ゴハンよりこっちがいいって人も多いのよ」
そう言って鍋を見せるリンリン。鍋の中には……。
「……ミルクスープ?」
「いーえ。これはオカユっていうの」
どん、と鍋をテーブルに置くリンリン。きちんと鍋敷きを持ってきた辺りはかなり常識人だったといえよう。
「ゴハンは知ってるわよね? あれを炊くときに水を多めにして炊いたのがオカユ。べとべとしているから私はあんまり好きじゃないんだけどねぇ。ちなみに、朝ご飯に食べたマンジューの材料はコメコなんだけど……あれも、オコメからできているからゴハンの仲間よ」
ゴハンは聞いたことがある。俺たちの主食が小麦であるように、リャンシではゴハンが主に食卓に乗るんだと。だけど……そりゃあ、毎日ゴハンばっかだと飽きるよな。それもあって、オコメを加工したコメコから作ったマンジューみたいなのも愛好されるんだろうな。
「へえ……それで、今日の昼はオカユを食わせてくれるのか」
「そう。薄味嫌いなフォルセス人の舌に合うように調味料を入れたから、まあぐいっと一杯いきなさいな」
それが病人(リンリン談)への指示かよ……。まあ、胃に優しいものを食べられるのはありがたい。それに、なかなかうまそうじゃんか。
「よし……じゃあ、ありがたくいただくぞ」
「どうぞ」
リンリンからスプーンを受け取り、鍋からオカユをすくい、一気に一口。




