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一通りの訓練が終わり、俺が玄関ポーチに腰掛けると隣のリンリンはどこか楽しそうに笑いながら、タオル(これもリンリンの胸の間から以下略)を渡してきた。
「お疲れ様。なかなかキレのある動きだったわね。昔からこういう訓練していたの?」
「まあな。基本の形は城で習ったやつだけど、それに俺自身のアレンジを加えてみた」
「へえ。確かに、あんたの剣の振り方は歩兵向きだったわね。城で習うなら騎兵向きの剣術だろうけど、そこは歩兵用に手を加えてたってわけか」
うん、その通りなんだけど……。だからどうしてそんなに詳しいの?
俺が問うと、リンリンは何てことなさそうに、側に置いていた木ぎれを手に取って言った。
「テディの特訓をよく見ているからよ。あの子、あんた以上に武術に秀でているから」
「テディ?」
テディ、ってあのテディでいいんだろ? 金髪の小柄な四女。男のような女。
「あいつ、武術派なのか?」
「そーよ。師匠に弟子入りする前はどこぞの騎士団に入ろうと思っていたくらいなんだから。あの子は代々武術を受け継ぐ家の生まれでね、親もテディが魔力を持っていたことにビックリだったらしいの」
へぇ……つまり、その武術派テディの特訓を観察するうちに、リンリンも体術の見極めも覚えてしまったってことか。
「現に、あんたがさっき使っていたこの木ぎれだってテディ用のものだもの。ほら、ちゃんと木刀みたいに削られているでしょ」
そう言ってリンリンが見せてきた木ぎれをよく見れば……確かに。柄の部分は丸く磨かれているし、刃に当たる箇所は薄く研がれている。妙に手に馴染むと思ったら、ちゃんとそれ用に加工されていたってわけか。
「じゃあリンリンは何か武術とかしないのか? 日頃の運動とか……」
まあ、こいつの体型を見る限り何にしても運動はできないだろうけど。腹筋でさえ、胸がつっかえて起き上がれなさそうだし。
とまあ、できないこと前提で聞いたんだが、とんでもない地雷を蒔いてしまったらしい。
俺の問いを聞き、ニヤリと意味深げに……それも、俺には不都合な方向に……笑うリンリン。
「そうねぇ……武術や球技はあまりしないけど……ひとつだけ、テディより絶対自身のある運動はあるわぁ」
おや、何やら寒気が……。
一歩、ポーチから後退する俺。向きを変えて俺に詰め寄るリンリン。
あれ? このやりとり、どこかでついさっき経験したような……。
「私はねぇ、この体を使っての××××なら自信あるわよぉ」
来た! 放送禁止用語!
いや、何となくそんな予感はしていたんだ! そして何となく、俺の一言は失言だったという自覚も!
だがな、そういう場合は華麗にスルーしてほしかったのだよ。「スキル:スルー」とは誰もが身につける可能性を持っているんだ。中には生まれながらに「スキル:スルー」を身につけている者もいるくらいだし。
だがしかし、××××に自信があるとのたまうリンリンさん(推定二十五歳くらい)はそのフラグを華麗に回収してしまったのだ。
物事は、俺にとって不利な方向に動いていっているようだ。
くそっ、さっきまでのシリアスな空気はどっかへ吹き飛んでしまったようだ……残されたのは、逃げる俺と、迫るリンリン。
リンリンは顔面蒼白(決して真っ赤ではない。蒼白なんだ)の俺を見、くすくすと色っぽく笑う。
「そんなに逃げないでよ。ほら、あんただって運動、したいんでしょ?」
いやいや、おまえの考える「運動」とは全く違いますから。
というか、これ以上近寄ったらいろいろやばいから! 「俺の理性が持たないZE☆」とかいう以前に、規制が掛かるよ。R指定になるよ!
それはいかん。なぜなら、この俺の物語は全年齢向きなのだ!!
じりじり、後退する俺だが……ああ、背中が家の壁に当たった。
「ほうら、もう逃げられないわよ?」
へたり込む俺の膝に這い上がり、俺のほおに手を添えるリンリン。おい、舌なめずりするな。
「大丈夫よ。これから一緒に……『運動』、しましょ?」
さようなら、親父、母さん。
そして、俺の純情。
合掌




