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いつもやっているトレーニング。
いつもと違うのは、場所とギャラリーの存在。
うん、大丈夫。よく言うだろ、「観客はジャガイモだと思え」って。
あいにく見学者ことリンリンはジャガイモに例えるのが忍びなくなるような美貌なので、今回は一輪のバラの花にでも例えておくか。
あ、今意外そうな顔をしただろ。「こいつ、口の悪い脳筋じゃなかったのか」って。
再三再四言うが、俺だって貴族だ。少年時代は城で作法も学んできたんだ。「剣を振り回す」や「馬で暴走」はその一端でしかないんだぞ。基本的にはお利口な優等生だったんだぞ。
で、当然女性を褒める言葉も習った。こういうのは常日頃から言うんじゃなくて、ここぞというときに決め台詞として囁くのが一番効果がいいんだ。普段から「君は私の太陽」やら「どんな宝石も君の輝きには勝てない」なんて言ってたらただのナンパ師だぞ。
え? 「だったらおまえ、リンリンを口説くつもりなのか」だって?
違う違う。男として、礼儀にかなった行動を取ったのみだ。おまえだって……あのリンリンをジャガイモだのに例えるのは気が引けるだろ? そういうこった。
そういうわけで。俺が今走り込みをしているのはへんてこりんな魔術師の家の庭。で、俺を興味津々に眺めているのはバラの花。
よし、これなら平常心を保てるぞ!
しかし、リンリンが俺を見る目が気になる。観察しているというよりは、俺の隙を狙っているかのような……うっ、背筋に悪寒が走った。
俺が普段走っているのはうちの屋敷の外周。この家は当然それより円周が小さいから、回数だけは多めにとっておいた。
とりあえず二十周走り、リンリンの前に戻る。さて、次に何をしようかと辺りを見回していると……。
「お疲れ。なかなかコンスタントな走りだったわね」
観客Rもといリンリンが口を出してきた。振り返ると、玄関ポーチに腰をかけ、頬杖をついている爆乳女が。
「どうも。……コンスタントってのは何のことだ?」
「走り方よ」
すっと、異常なほど細い指を立てて笑うリンリン。気のせいか、さっきほど嫌な笑みじゃないように思える。
「今、二十周走ったでしょ。普通そんだけ走ったら速度や時間がだんだん落ちるはず。でもあんた、ほとんどブレがなかったのよ。最初から計画して走ってるのね、感心したわ」
なぜか感心されてしまったが。
正直、俺の方がリンリンに感心した。
てっきり、こいつは観客と称して妨害者になる気なんじゃないかと身構えていたのだが、どうも俺の走り方をきちんとチェックしていたようだ。時計を持っているようにも見えない(小型時計は高級品だ)し、頭の中で秒数を数えてたってことか。
それに、俺は別に計画的に走ってたわけじゃない。最初からぶっ飛ばすと逆に持久戦で困るだろうとは思っていたが、そこまでかっちしりた走りだったとは……自分でも気づかなかった。




