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ぐん、と体が持ち上げられる感触。この四角形の部屋ごと誰かが持ち上げて……で、そのまま急に下降したような……胃がきゅっと縮まったような感覚。
違和感は一瞬だったが、俺はすぐ、外の変化に気付いた。
さっきまでは外から音はしなかったが、今はドア越しに、微かな小鳥の鳴き声が聞こえてきていた。
「……サラン、ドアを開けなさい」
じいさんに命じられ、呪文詠唱後ぼうっとしていたサランははっと我に返る。俺の横を通ってドアを開け……。
眩しいばかりの日差しが目に飛び込んできた。
ドアを開けた先は薄暗い階段ではなくて、風吹く高原。チチチと小鳥がさえずり、草が風を受けてさわさわと揺れる。さわやかな風が部屋へ吹き込み、俺たちの髪をくすぐった。
春の色に染まった、美しい草原だった。
……すげぇ! 本当に一瞬でワープしたんだ!
つまり、この正方形の部屋ごとマックリーンの丘に移動したんだな。傍目から見たら滑稽きわまりない光景だろうが……。
「すごいな、サラン。驚いたぞ」
正直に、思ったままのことを言うとサランは驚いたようにこっちを見て……恥ずかしそうに微笑んだ。
「あ、ありがとうございます! こんなにうまくいったのは、初めてです!」
背後からリンリンの「ひょっとしたら、アークがいるから張り切っちゃったんじゃないのー?」というからかいが飛んできたため、サランは真っ赤になって俺から離れた。
……ちょっと残念かも。
「ようし、サラン。よくできたな」
いつになく優しい声でタローが声を掛け、サランはまた、嬉しそうに微笑んだ。
「さて……じゃあ次じゃ。ほれヘタレ公子、ドアを閉めんか」
……後で××××のブイヤベース食わせてやろうか、このジジイ。
渋々俺がドアを閉めたとたん、ぐっと胃のあたりが圧迫されて……すぐに元に戻った。
……ひょっとして今、ジジイが転移魔法使ったのか?
本当に、一瞬だったぞ! だが本当のことらしく、外からはもう、小鳥のさえずりも草の音も聞こえない。例の地下室に戻ったんだろう。いきなり四角い部屋が現れて消えて。マックリーンの動植物はびっくりしたことだろうな。
「じゃあ……今日の公子のお相手、シャリーといこうかの」
「お任せを、師匠」
顔面蒼白だったサランと打って変わって、シャリーは毅然として部屋の中央に立つ。で、振り向き様に俺にウインク。
「アーク殿、私の魔術、しっかり見ていてくださいね」
くっ……今のウインク、不意打ちだった。一瞬不覚にもドキッとしたじゃないか!
「ではシャリーは……バヌ山脈で一番高い山の先っちょ、でどうじゃ?」
「構いませんわ」
シャリーははっきり答えるが……。
バヌ山脈って、あれか? フォルセスの隣国モーレット王国に位置する険しい山脈地帯で……しかもその山々はつららを逆さまにしたかのように尖っているって。
どうやって着地するんだ?
俺の疑問と不安をよそに、シャリーは呪文を唱えていく。さっきサランが唱えたのと全く同じだ。
ジジイが「イメージ」とか言っていたことからして……この転移魔法は、呪文は同じで行き先については術者のイメージに委ねられるんだろうな。だからサランは平和なピクニック名所に移動できたと。
……ん? シャリーは一体どうやってバヌ山脈で一番(略)をイメージするんだ?
ひゅっと、体が持ち上げられ、下ろされる。さっきと同じ感覚だ。
……おや? ドアの外から風の音がする。
「……よし、じゃあ貴様、ドアを開けるんじゃ」
はいはい、全く客人に遠慮がないジジイだ。そう愚痴りながら、俺はドアを開けた。




