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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
2日目 王道王道まさに外道
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10

 魔術師が弟子を取るってのはそう珍しいことではない。というかむしろ、自分の子どもが魔術師の素質を持っていたなら名の知れた魔術師に預けるのが最適だとも言える。

 いくら両親共に魔術師だったとしても、子どもに教えられるだけの時間や能力、資質があるとは限らない。だから一般市民の両親は近所に住む魔術師に子どもを託すし、貴族レベルになると大金叩いて高名な魔術師に弟子入りを懇願したりする。それくらい、子どもの魔術師教育は重大だってことだ。


「私たち魔術師はそれぞれ、得意分野と不得意分野があります」

 これは別に、魔術に限ったことではありませんが、と付け加えるシャリー。そうだな、例えばおまえの料理の腕前とか。

「私は数ある魔術の中でも……そうですね、風を使った分野が得意と言えましょうか」

「風を?」

 シャリーは頷き、立ち上がると窓辺に近付き、古びたガラスのはめられた窓を押し開けた。ニ酸化炭素を多く含む部屋の空気が入れ替わり、春を感じさせる暖かな風が吹き込んできた。

「アーク殿、あの木になっている赤い実が見えますか」

 シャリーに言われ、俺は身を起こした。さっき飲んだ薬の効果もあってか、だいぶ体は楽になった。

 シャリーが示すのは、うっそりと佇む広葉樹林。俺には何という種類の木かは分からなかったが、葉に埋もれるようになっている赤い実は見て取ることができた。

「あの実か」

「ええ、リンゴが突然変異した木ですが……見ていてください」

 シャリーは俺の隣で目を閉じ、胸の前に両手を差し出した。ちょうど、人から物を受け取る時のような手つきだ。


 その唇から、言葉が紡がれる。

 俺には理解できない、一連の歌のような言葉。魔術師が大地の魔力と交信する時の媒体となる……呪文だ。

 呪文はたいてい、俺たちが日常使っている言語とは全く違う言葉で構成されている。だから当然、今シャリーが何を唱えているのか聞き取ることはできなかった。

 春風のように澄みきったシャリーの声を受け、庭の木々がざわりと揺れる。彼女の紡ぎ出す節に合わせて、葉が靡く。


 ふいに、さっきまで葉の陰から見え隠れしていた例のリンゴもどきが細かく揺れ、ぷつん、とハサミで切り落とされたかのように枝から離れた。

 木の実は風を受けてふわりと空中に舞い上がり、ゆっくり、こちらがじれるような速度で空中を浮遊してくる。


 ……風を感じた。

 シャリーの回りを渦巻く風と同じ、暖かい風。

 木の実はこちらへと飛んできて、差し伸べられたシャリーの両手へと……着地した。

「……うまくいきましたね」

 目を開け、シャリーは手の中のリンゴを見て満足そうに微笑む。

「今、幾種類かの風を使い分けて木の実をここまで運んできたのです」

「種類があるのか?」

 俺の問いに、シャリーは頷く。そして、リンゴに目を落とした。

「木の実を枝から切り離したのは……風刃、つまりは凝縮された風です。そしてここまで持ってきたのは、下方から吹き付ける風。噴水は見たことがありますよね。風は目には見えませんが、ちょうど噴水のように下から吹き上げていたのです。そして、下方からの風に加えてこちらへと運ぶ、横風。この三種類を混合させていたのですよ」

 なるほど。俺はシャリーの説明を頭の中で整理しながら口を開いた。

「つまり、その三つのうちのどれかしか使いこなせなかったら……ここまで持ってくることはできなかったんだな。風刃のみだと、枝から切り落として地面に落とすしかできない。それに下方からの風が加わると持ち上げるだけ。それに横風が入って……こっちまで運ぶことができたと」

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