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シャリーはやはり話し上手で、魔術師初心者の俺にも分かりやすく教えてくれた。
まず、「魔術師」という存在について。
魔術師が魔道の原動力とする「魔力」はそもそも、この世界に最初から存在するものだったらしい。いくらなんでもフォルセス連合王国設立以前……今から数百年以上前……から生きる者はいないので、その辺は確かではないのだが。
だが、大地に魔力が宿っているからと言って全ての人間がその魔力を身に受けることができるわけではない。人間によって活用されない真っ新な状態の魔力は、世界にとって毒にも薬にもならない。だからこそ、魔力の存在に気づける者はほとんどいなかったのだ。
で、大勢の人間の中の一握りは、魔力の胎動を感じていたのだ。何かおかしい。自分の体が異常なんじゃないかと。
怒ったりすると風が巻き起こる。悲しいと雨が降る。極寒の村で、薪がほしいと願うとどこからともなく丸太が降ってくる。最初こそ、その特異な力を持つ人は「異端」とされ、常人から疎まれてきた。国によっては、異端者を公開処刑する動きを見せていたところもあったそうだ。
だが、次第に魔力の存在が解明され……その力を正しく使えば世界を潤すこともできるのだと判明した。
そうして、生まれながらに大地と交信できる人々を「魔術師」と呼び、共に協力し合い、国を潤していくことを定めたのだった。
「……とまあ、これは我がフォルセスの例ですわ」
シャリーはほおに手を当て、悲しそうに目元を暗くした。
「残念ながら、近世に至るまで魔術師迫害が続けられていた国もありました。中には……民族の年間行事で魔術師の血肉を祭壇に捧げる部族もあったそうです。現代でさえ、魔術師を快く思わない国家も存在します」
「……それは……酷いな」
やはり、「自分とは違う」人間を受け入れることは難しいのだ。特に、「自分」が多数派である場合は。多数派には、虐げられる少数派の心が届かないということなのだろう。
シャリーの話は続く。
シャリーらの師匠であるタローは、フォルセスの片田舎に生まれたという。幼少時から莫大な魔道の才能を発揮し、力を押さえられなかった頃はよく、ケンカをふっかけてきたガキ大将を隣町まで吹っ飛ばしたりしていたらしい。
で、文化も未発達な片田舎なだけに次第にタローは疎まれ、一人村を出て各地を放浪しながら魔力で生計を立てていたんだという。あのジジイにそんな経歴があったとはな。
だがタローは間もなく、当時フォルセス王族の専属魔術師だった魔術師に拾われ、彼から教えを受けることになった。その魔術師は人柄も魔道の腕前も達者で、教え方もうまかった。そしてタローはめきめき頭角を発揮し、寿命で天に召された師を越えるような大魔術師になったという、が。
「師匠はあの通り、ちょっと変わり者で。師から継続して王家に仕えるよう要請されたけれど、それを蹴っちゃって」
どうやら、一所に留まって誰かのために貢献するのは性に合わないらしい。それで、魔術師の才能の芽生えを感じさせる少女を引き取って自分の元で教育し、彼女らが自分の力を持って世界に羽ばたけるよう、支援するのが生き甲斐になったそうな。
「そうか……ということは、シャリーたちもじいさんに引き取られたんだな」
「ええ。ちなみに私の家はディルフィーユといって……家族はフォルセス首都区に住んでおりますの」
と、シャリー。
ん? ディルフィーユって……聞いたことあるぞ。しかも、あまり喜ばしくない覚え方をしたような……。
あ、そうだ!
「ディルフィーユってまさか、フォルセスのディルフィーユ子爵家か!? マリエッタ・ディルフィーユ嬢のいる……」
「あら。妹のことをご存じでしたのね」
さすが次期フォード公爵ですわ、と微笑むシャリーだが……。
だいたい予想は付いているだろうが、ディルフィーユ家はうちに見合い書を送ってきた諸侯のひとつだ。何が何でも娘をうちに嫁がせたかったらしく、フォード領内で金鉱が発見される前から、ちょくちょく見合い書が送られてきていたんだ。だから覚える気がなくても、覚えていた。で、その娘ってのがマリエッタ嬢。シャリーを見れば分かるが、姉によく似た美人だった。これはあまり肖像画に手が加えられてないな、とも思ったんだが……。
「マリエッタは元気ですか? 久しく会っていなくて……今年で八つになったでしょうか?」
そう、マリエッタ嬢はこの前八才になったばかり。
二十才の俺と、八才のマリエッタ嬢。
断言する。俺は、ロリコンではないっ!




