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朝食の席でもやはり、全員揃ってマナーよろしく食事をした。だが。
「……これ、誰が作ったんだ?」
俺の皿によそわれたのは、毛の生えた赤茶色の塊。少なくともそう見えた。サランがおたまで俺の皿に乗せたとたん、べちゃって音がしたぞ。しかもこれがまた、なかなかデカくて……巨大化した芋虫みたいな形状だった。
「ああ、今日の当番は私です」
しとやかにシャリーが手を挙げる。長い銀髪を、今日はシニョン風にまとめ上げていてなかなかな美人……って、そうじゃなくて!
「これ、シャリーが作ったのか? まじでか? 食い物か、これ?」
「失礼ですね、当然ではないですか。ちなみにこれはブイヤベースというお料理です」
俺の記憶が正しければ、ブイヤベースってのは魚介メインのスープだったはずなんだが。これはどう見ても固形物だろ! 液体ですらないだろ! この物体Xのどこが魚介類なんだ!
「何をおっしゃいますか、ほら、きちんとスープも注がれているでしょう」
シャリーはぷうっとほおを膨らませて抗議する。彼女の主張するスープとは……そう。皿に注がれた時にべちゃりと音がした、わずかな液体のこと。といっても、俺の皿の九割は例の物体Xが占めていて、「汁」に該当する部分はほんの匙一杯分なのだが。
「まあ、姉様。今日のスープはいつになくお上手にできましたのね」
スプーンを持ったままわなわな震える俺を見ることなく、リンリンが姉を誉めちぎる。
「これは何という食材を使ったのでしょう?」
「それはですね、×××の××××という、大変貴重で高級な食材ですの」
……ん? 今、とんでもない放送禁止用語が聞こえたような……。
「まあ! ×××を調理なさったのですね! ××××はオスの×××にひとつしかないので、とても高かったと思いますの」
「ええ、でも少し値切ってもらいましたの」
「さすが姉様! 姉様の美貌に勝てるものなんてないもんね!」
「全くです。では、姉様力作のブイヤベースをいただきましょうか」
え、食べるの? これ、本当に?
というか他のやつらは疑問に思わないの? これ、××××なんだよ?
ちらと、他の面々を伺ってみる。俺の隣のタローじいさんは……おや? はしゃぐ姉妹とは対照的に、なんだかげんなりしているぞ。てっきりジジイもこの珍味のファンなのかと思いきや。
ジジイが、ゆっくり俺を見る。昨日以上に目が死んでるぞ、じいさん。
そして、ゆっくりと口を開く。
「……シャリーはな……弟子の中で……一番料理下手なんじゃ」
そう、血を吐くような地獄の小声で訴えるタロー。
いや、これはもう、下手とかいう次元じゃないと思うが。ということは、このジジイもシャリーの料理には難儀していたのか。食事を当番制にしたの、今からでも遅くないから変えた方がいいぞ、じいさん。
そんで、サランはというと……ものすごく複雑そうな顔で皿の中の物体Xを見つめている。四人の姉と違って、まだシャリーの料理に馴染みきることができないんだろうか。
サランが、俺を見る。そして、見たことを後悔したかのようにふいと顔をそらした。揺れる髪の隙間から見えるほおが、少し赤い気がする。
だよな。だってこれ、××××だもん。
「では……世界を統べる、万物の神に感謝して今日の食事をいただきましょう」
シャリーの号令で、フォルセス流の食前の祈りを捧げる俺たち。
フォルセスの神様。
どうか、これを食べずに済む方法を教えてください。




