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いや、待て俺! ここでくじけたときこそ運の尽き。つまり、俺はまだ戦わなくてはならない!
俺の自由のために!!
「待ってくれ、じいさん。そっちで勝手に話が付いているようだが……俺には周知の通り公爵夫妻という名の両親がいる。いろいろ吹っ飛んだ性格の両親とはいえ、今は金鉱関連であくせくしている。そんな中、いくら大魔術師タローの弟子といっても勝手に婚約するなんて……」
「ああ、その心配は無用じゃ」
ジジイは弟子たちを制し、ふところからなにやら巻紙らしきもの……おそらく書簡……を取り出した。
「貴様のご両親には既に了解を取ってある。話をするとな、大喜びじゃったぞ。ヤッフーーーーッと叫びながら屋敷を駆け回っておったわい」
……今何と?
ほれ、とばかりに差し出された書簡を受け取る。じっとり汗でぬめる手でそれを受け取り、封を外してみる。高級羊皮紙に記されているのは、間違いなく親父の字。要約すれば、
「よくやった息子よ! 見合い書は全て断っておくから、気に入った女性を選ぶとよい。ではな。孫の顔を楽しみにしてるぞ、アデュー!」
と。
アデュー! じゃねえっての、あのお気楽親父!
この様子だと、母さんもさして反対しなかったんだろう……くそっ、八方ふさがりか……?
しかもこの速さは、あれか、魔法で速達しやがったな!手の込んだことを……!
「……とは言っても、いきなりこの中から選べと言うのも酷じゃろう」
既に魂抜け落ち、書簡を手にしたままミイラと化した俺にさすがに同情したのかこれも計画通りなのか、ジジイは俺の肩を馴れ馴れしくぽんと叩いた。
「七日、やろう。今日を含めて七日じゃ。貴様はその間、一日一人ずつ弟子たちと生活し……その人となりや趣味、性格を知るとよかろう。弟子は五人だから、明日から一人ずつ……で、最終日の七日目に生涯の伴侶となる者を選ぶのじゃ」
一見すると、ものすごい妥協案を出してくれているようだが。
だがしかし、俺は精神的に追いつめられており、数日後には妻となる女を選ばなくてはならない……その事実は歪みないようだった。
つーか、何が何でもこのジジイは自分の弟子を俺の嫁にしたいようだな。なんでだよ……なんでなんだよぉ……。
「というわけじゃ。シャリー、リンリン、ユイ、テディ。皆で仲良くこの男を虜にしてみせるのじゃよ」
師匠の声に合わせて、「はーい!」と元気よく返事する四人組。
前略、父上母上。
どうやら俺は……これから、人生最大の苦行に立ち向かうようです……。