エリスが壊れた
「クラリス。お前、俺の『憂さ晴らし』に協力できるか?」
「もちろんです、我が主。まずは、私の後ろで震えているこの無能な騎士たちを、どのように『加工』しましょうか? 彼ら、家族の写真をお守りにしているような『いい人』ばかりですので、壊し甲斐がありますよ」
クラリスは楽しそうに、自らの部下を指差した。
「ひ!? 何を……ッ!」
「裏切りだ! 聖騎士様が、あの悪魔と……!」
騎士たちの叫び声が、城内に響き渡る。
それを聞いたクラリスは、心底幸せそうに笑い、俺の靴にそっと口づけをした。
「……ねえ、勇者様。まずは彼らの『希望』である私自身が、あなたの前でどれほど汚れていくかを、彼らに特等席で見せつけてあげましょう。それが、彼らにとって一番の『絶望』になるはずですから」
おー、おー、ただのマゾメスでもあったか。
しかし、いいスタイルだ。
クラリスと大人の遊戯を豪快に楽しむ。
哀れな魔王が叫んでいる。
「ひぃ……! もう嫌だ、この城……。狂人しかいない……! 勇者一人でも地獄だったのに、今度は聖騎士まで……! 誰か、誰か私を殺してくれぇ……っ!」
────
気分がスッキリした後。
「……あはっ、あはははは! おかしいわ、本当におかしい」
魔王城の冷たい床に這いつくばりながら、聖女エリスが突如として笑い出した。
その笑い声は、かつての鈴を転がすような清らかさではなく、錆びたナイフでガラスを削るような、耳障りで不気味な響き。
世界に恥辱を晒し続けてもなお、心の奥底で「誰かが助けてくれる」と信じていた彼女の最後の糸が、目の前の光景――「憧れの聖騎士クラリスが、勇者の足元で恍惚としている姿」を見て、ついに弾け飛んだのだ。
クラリスが、俺の膝に頬を寄せたまま、軽蔑を込めてエリスを見下ろした。
「あなたが救おうとしていた民は、あなたの恥辱を肴に税金の安さを喜び、あなたが信じていた私は、こうして勇者様の素晴らしさに酔いしれている。……ねえ、エリス。この世界に『光』なんて、最初から一滴も残っていなかったのよ」
エリスはゆっくりと立ち上がった。
その瞳は、濁りきった暗黒ではなく、「何もかもがどうでもよくなった」という、真に虚無な色。
「そうね……そうよね。私がどれだけ泣いても、祈っても、世界は何も変わらなかった。……でも、一つだけ気づいたわ。私が『汚れる』ほど、民は喜び、勇者様は輝き、そして……」
エリスは、奇妙な粘着性のあるドロドロに汚れた自分の手を見つめ、それを愛おしそうに舐めた。
「……そして、それを受け入れたら、私自身の心が、こんなにも『軽く』なるんだってこと!」




