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俺は上機嫌で魔王城のダイニングルームへと向かった。
そこでは、エプロン姿の魔王が、汗を流しながら料理を準備していた。
「勇者様……本日のディナーは、魔界の食材を使ったスペシャルメニューでございます。どうぞ、ご賞味ください」
魔王は震える声で言う。その手つきは、かつての威厳ある王ではなく、ただのベテランシェフのようだ。
「へえ、頑張ったな。でも、お前、さっきの配信もちゃんと見てたか? お前が作った料理は、あの地獄の映像の『対価』として、誰かが無理やり食わされるんだぞ?」
俺は魔王の料理を一口食べる。うまい。だが、それだけでは足りない。
「魔王、お前の料理は美味い。だがな、『絶望』が足りない。もっと深い絶望を込めてみろ。例えば、この肉は『魔族の子供をピーーーーーー』とか。このスープは『聖女のピーーーーーーー』とかさ」
「……っ、そ、そんな、鬼畜な……!」
魔王がドン引きしている。いい傾向だ。彼の中の「魔族としての良心」が、少しずつ削られていくのがわかる。
魔王の顔が青ざめる。
その時、ダイニングルームの扉が開き、ボロボロになったエリス、セレナ、ガルドが、魔族のスタッフに連れられて入ってきた。彼女たちは、絶望のあまり表情を失っていた。
「こ、こんなもの、食べられない……」
「き、気持ち悪い……」
「食べ……たく……ない……」
さあ食え。『絶望のディナー』だ。もちろん、残したら故郷への『絶望追加オプション』が発動するからな」
三人は、震える手でスプーンを握り、目の前の豪華な料理を、まるで毒薬を飲むかのように口に運んだ。
魔王は、自分が心を込めて作った料理が、彼女たちのさらなる絶望を演出する道具になっていることに、顔色を失っていた。
「どうだ、魔王。この絶望の味は。お前が作ったんだぞ。最高に美味いだろう?」
俺の問いに、魔王は力なく頷いた。
彼の瞳には、もはや「支配」の野望ではなく、「終わらない屈辱」の影が深く刻まれていた。




