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「そうか。じゃあ、それを俺が全部補ってやろうか?」
その言葉を合図に、俺の足元から闇色のオーラが噴き出した。いや、正確には、賢者たちのローブの隙間から、彼らの瞳の奥から、心臓の鼓動から、「生」への執着と「死」への恐怖が、まるで魂のガスのように俺の元へ吸い上げられていくのがわかる。
『絶望の収穫』がフル稼働だ。
「なっ…なんだ!? 俺たちの魔力が…体が…!」
「召喚陣が…光が…!」
グランディウスは悲鳴を上げた。彼のローブがみるみるうちに色褪せ、肌は生気を失っていく。他の賢者たちも同様だ。彼らの体から、生きていくための「希望」と「力」が、水たまりが蒸発するように消え去っていく。
俺のチートは、彼らの「魔力」だけを奪っているわけではない。「生きる意味」や「未来への展望」といった、彼らが秘めるあらゆるポジティブな感情、そして「絶望したくない」という抵抗のエネルギーを、文字通り根こそぎ吸い上げているのだ。
「ええ? 何って、俺が言っただろ? 『お前らの足りないものを全部補ってやる』って」
俺は嗤った。
「お前らが言う『魔力』。それは、つまり『生きる力』だろ? そして『特別な力』。それは、お前らが持てなかった『才能』だよな?」
賢者たちの顔から、血の気が完全に失われる。彼らの体は、まさに乾いたミイラのようだ。眼窩だけが大きく虚ろに開かれ、絶望が満ちている。
「俺は今、お前らの『魔力』と『特別な力』、そしてお前らが魔王を倒すために必要だと信じていた『希望』を、全て吸収させてもらった。おかげで、俺のチートは最高に美味しくなったよ」
グランディウスの口から、か細い、しかし間違いなく「絶望」そのものの呻きが漏れた。その音が、俺の鼓膜を最高に気持ち良く刺激してくる。「ははっ、最高だな! 誰かの人生をゴミ箱に捨てる音が、こんなに心地いい子守唄になるなんて!」
「ああ、そうだ。お前らは『魔王の脅威から世界を救ってくれ』って言ったんだよな? 安心しろ。俺は救ってやるさ。お前ら、『絶望』という最高の材料を俺に提供してくれたんだからな」
召喚陣の光が完全に消え、ローブの男たちは、まるで塵のようにその場に崩れ落ちた。彼らが残したものは、冷たい石床に広がる、色褪せたローブと、深く甘美な「絶望の残り香」だけだ。
芳しい。実に、芳しい香りだ。嗚呼………。
俺はニヤリと笑った。
「さあ、まずは最高の素材で腹ごしらえだ。ここからが本番だよ、異世界さん」




