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「よし、全員元気になったな。じゃあ、物件の視察といくか」
俺はエリスの首につけた鎖を軽く引き、魔王城の中へと足を踏み入れた。
玉座の間。そこには、魔王軍のトップである魔王が、武器を抜きもせず、真っ白な旗を横に置いて座っていた。
「……勇者よ。貴様の要求は聞いた。だが、魔王たる私が貴様に膝を屈するなど……」
「あ、それ、前世で言い飽きたセリフ『プライドで飯が食えると思ってるのか?』ってね。ブラックにならなきゃ生き残れないんだよ」
俺は魔王の言葉を遮り、チート『絶望の収穫』を玉座の間に充満させた。
魔王の背後に立つ影の精霊たちが、恐怖のあまり霧散していく。
「魔王。お前の今の地位は、今日から『株式会社・異世界絶望商事』の、魔界支店長(平社員扱い)だ。給料は歩合制。ノルマは、どれだけ効率よく人間から魔力を搾り取れるか。達成できなきゃ、お前を『光り輝く聖水』に毎日10時間浸ける刑に処す。……エリス、お前の魔力なら可能だよな?」
「……っ……」
エリスは答えず、ただ絶望に染まった瞳で俺を見つめる。
「なっ……私を、ただの労働力に……!? この魔王を……!」
「不服か? なら、お前の愛する魔族たちを一人ずつ、『法的に合法な手続き』で一族郎党、魂の末端まで差し押さえていってもいいんだぜ? 前世の俺が会社でやった事を、もっとクリエイティブに再現してやるよ」
「な、なぜだ!? 奴のくだらない戯言が、響く……、この得体知れぬ魔法のせいか……」
魔王のプライドが、物理的にバキリと折れた。
彼はよろよろと玉座から降り、俺の前で跪いた。
「……承知した。今日から、私は貴様の……『支店長』だ」
「ははは! 物分かりが良くて助かるよ。魔王城の家賃も、しっかり給料から天引きしとくからな」
魔王城の主となった俺は、エリスを「王の寝室」へと連れて行った。
そこは、かつて魔王が支配の夢を見た場所だ。
「さて、エリス。魔王も下したし、世界はとりあえず『平和』になったな。……俺の管理下でね」
俺はエリスを鏡の前に立たせた。
そこには、泥と涙にまみれ、首に鎖をつけられ、聖女としての輝きを完全に失った「ただのメス」が映っていた。
「鏡を見てみろよ。お前が守りたかった世界は、今やお前が必死に治療した魔族たちと、俺という『ゴミ』によって回ってる。お前はその歯車を回すための、最高のオイルだ」
「……殺して……。もう、殺してください……」
「殺さないよ。お前が絶望すればするほど、俺のチートは潤う。お前が俺に屈辱を感じれば感じるほど、俺の魔力は無限になるんだ。……そうだ、いいことを思いついた」




