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「ほう。聖女様、か。お前からは、実に甘美な『希望』の匂いがするな。だが所詮は魔王ごときに苦戦する一人の女に過ぎない」
俺はにやりと口角を上げた。
「俺は勇者だよ〜。だが、勇者が善人だと誰が決めた? お前らの『絶望』で、俺は美味を感じるんだ。さあ、聖女様。君は一体、どんな顔をして絶望してくれるのかな?」
聖女は、俺の言葉に息を呑んだ。
彼女の聖なる光が、僅かに揺らぐ。
彼女の心に、微かな「誤算」と「困惑」の影が差した瞬間、俺のチートはさらに強力なエネルギーを吸い上げていた。
「禍々しい闇の力……? お前、失礼なこと言うなあ」
俺はわざとらしく傷ついたフリをして、胸に手を当てた。
聖女が構える杖の先から放たれる聖なる光が、俺の周囲の「闇(絶望の霧)」を浄化しようと激しく火花を散らしている。だが、無駄だ。俺のエネルギー源は魔力ではなく、人間の「負の感情」そのものなんだから。
「私は聖教会の聖女が一人、エリス! あなたの暴挙、神に代わってお止めします! 民を苦しめ、魔族と結託するなど、勇者の名が泣きます!」
「名が泣く? ははっ、お堅いねえ。エリスちゃん、一つ教えてやろうか」
俺はゆっくりと彼女に歩み寄る。エリスは怯むことなく杖を突き出したが、俺が放つ異様な威圧感に、その指先は微かに震えていた。可愛い奴め。
「俺は王から全権を委任された『救世主』だ。つまり、この国において俺の言葉は『法』そのものなんだよ。そして、魔族を従わせているのは、彼らを『無償の労働力(奴隷)』として再利用しているだけ。これのどこが『悪』なんだ? むしろ平和的で効率的な解決策だろう?」
「……っ、詭弁を! 民から財を奪い、絶望させることに、どんな正当性があるというのです!」
「正当性? あるよ。『魔王を倒すため』この一言で、すべての犠牲は『必要な献身』として処理される。お前ら聖教会も、いつも言っていることだろう? 『神のために尽くせ』ってさ。俺はそれを、もっと現実的で具体的な形にしてやってるだけだよ」
俺はニヤリと笑い、彼女の耳元で囁いた。
「それとも何かい? 聖女様は、魔王討伐を遅らせて、さらに多くの犠牲者が出ることを望んでいるのか? お前が俺を否定することは、『魔王に加担すること』と同義なんだぜ?」
「そ、それは……! 私はそんなこと……!」
エリスの瞳に、明らかな動揺が走った。
「正義」を信じている人間ほど、自分の行動が「悪」に転じる可能性を突きつけられると脆い。彼女の心から溢れ出した『自己矛盾という名の絶望』が、俺のチートを甘美に刺激する。




