24話 私は私を信じる
アリエルは二人を揺り動かして起こした。
「ギリギリ合格」
ノルが黒板に三人の評価を書き出す。
「お前達は観察 → 考察 → 実践という思考の流れを、三人で分担して成立させている。誰か一人が完璧なのではなく、役割が噛み合ったことで生き残った構図だ」
「カインの行動
観察力→床が歪まないことに気づいているが、なぜ歪まないかを深く見ていない。シャドウウルフの威圧や怒りの変化には敏感。身体感覚的な観察は強いが、構造や条件を見る視点は弱めだな。
考察力→『俺は平気だから行こうぜ』と進もうとする。床ギミックでは原因分析を他人に委ねている。危機下では直感頼りになりやすい。
実践力→先頭に立つ。武器を捨てる判断を受け入れる。逃げるタイミングでは即行動。
実践力は高い。考え切れていなくても「動ける」タイプだ。
総評→行動担当・盾役。考えるより先に動くが、仲間の判断を信頼して従える点が強みだ」
「ユナの行動
観察力→床の異変を正確に言語化。カインとの違いを列挙。
黒い点の存在に最初に気づく。魔法が使えない異常を即座に認識。狼の行動から「子どもがいる」可能性を感じ取る。
観察力が非常に高い。情報をそのまま出せる。
考察力→条件を並べるが、どれが本質かは判断できていない。
狼の正体・状況を推測できるが、初動では恐怖に飲まれやすい。 思考力はあるが、感情が強い場面では処理が遅れる。
実践力→魔法を使おうとする(失敗)。戦闘不能に近い状態に陥る。だが、武器を収める判断には即従う。単独では実践が止まりやすい。
総評→センサー兼データ提供役。状況把握能力は高いが、判断の最終決定は他者が必要」
「アリエルの行動
観察力→床が「止まれば戻る」ことに気づく。ギミックを「見る・考える・行動する」と言語化。狼の魔力・行動の変化を冷静に把握。派手ではないが、要点を見る観察。
考察力→条件を整理し、検証案を出す。「振り向く」は不要だと後から判断。狼の行動から「敵意ではなく防衛反応」と仮説を立てる。この場で一番高い考察力。
実践力→自分は前に出ない。武器を捨てる決断を即出す。壁沿い移動というリスクの低い行動を選択。 自己主張は弱いが最適解を静かに通す実践力。
総評→判断役・戦略担当。前に出ないが、この場を救ったのはアリエルの判断」
三人は眠っている。
「アリエルへの評価(判断型生徒)
良い点→情報を整理し、検証可能な行動案を提示。
不要な条件を切り捨てる冷静さ。
武力ではなく意思表示で危険を回避した判断。
考察力・判断力は指導者適性あり。
問題点→自己評価が低く、前に出ない。
決断を他者に委ねがち。
主導権を取る場面で遠慮が出る。
要は観察(情報収集)ユナ
考察(意味づけ)アリエル
実践(行動・突破)カイン
この分担が成立したから、無用な戦闘を避け親子の魔物を刺激せず生還できたと言う事だ。各自ノートに今日の行動についての反省をまとめて提出する事」
帰りの馬車の中でユーリが三人に対するノルの評価を読み上げる。
「パーティーとして成立してる上にアリエル様は判断と戦略担当!そして指導者向き!さすがです、アリエル様!」
リリアがアリエルの才能に感動して一人で騒いでいる。
しかし、アリエルにはリリアの賛辞は響かない。
「アリエル様、リリアの言葉を信じられませんか」
ユーリの言葉に顔を上げるアリエル。
「魔物を前にして武器を捨てると判断したのはなぜですか」
ユーリの質問にアリエルは少し考えてから答える。
「敵意が無いこと知って安心して欲しかったから?」
「先生が言いたいのは、取った行動が正解か不正解か、と言う事ではなく、アリエル様自身が考えて決めて、その責任を引き受けた事だと思います」
「もし、あのウルフが子どもを守る為じゃなくて、私達を食べようとしていたんだとしたら、武器を捨てる選択をしたのは失敗だったんじゃないかなって思うと怖い。私の判断で二人が死んじゃったら怖い・・・・」
ユーリの言葉に本音が出るアリエル。
「それを怖いと思えるアリエル様ならもう無責任な判断はしないと思うので大丈夫だと思います!」
「リリア?」
「だって本当に食べるつもりだったら近づかれた時点で食べられてると思うんです!だから、その、アリエル様のせいにはならないと思います!」
「アリエル様は逃げなかったじゃないですか。二人を置いて逃げると言う選択もあったのに、考えもしなかったじゃないですか!」
「だから、アリエル様が武器を捨てると判断されたのは、数ある内の一つの選択であって、その」
「だから、選択した事を後悔しないで欲しいんです」
俯き小声になるリリア。
「あの場に安全な選択は存在しなかった。
武器を持つか捨てるか。
どちらも誰かが死ぬ可能性はあリました。
だから問題は当たったか外れたかではありません」
「下した判断から逃げない事。これが出来るかどうかです」
暫く沈黙が流れる。
「分かった。私はもう逃げない」
「リリアが褒めてくれた事、凄く嬉しかった。リリアの言う通り、私は私を信じる事にする」
「アリエル様!」
二人は抱きしめ合ってちょっと泣いた。
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