23話 見て、考えて、動く的な奴
「実際にやってみようか」
左手首に掛けてある袋から小さなロウソクを取り出したノル。
燭台に差して火をつけると黒い煙が室内に充満し、視界がグラッと歪んだ。
視界が戻った時、アリエル達は廊下に立っていた。
「わ、俺達いつの間に廊下に出たんだ?!」
カインが慌てて周囲を見回す。
「違うよ。あの担任、さっきロウソク出したでしょ。アレは幻影をみせる魔道具だよ。だからこれは幻」
「で、アレがゴールかな」
ユナが指差した先に一つの教室がある。
「何だすぐ目の前じゃねえか。一瞬で終わるぞ」
カインが先頭に歩き出す。
「わ!」「ぅわ!」
後ろでアリエルとユナが小さく悲鳴を上げる。
「どうした?!」
カインが振り向くと、二人の足元の床がグニャグニャ歪んで二人は大きくよろめいている。
「うわ!何だその床?!」
カインが後ずさる。
「分かんない!歩こうとすると床が歪むの!」
「止まれば床も戻るよ!」
アリエルの言葉に従いユナがピタッと止まると床がゆっくりと元に戻った。
「俺はなんともないけど、戻ったんなら行こうぜ」
カインが再び歩き出すと、また後ろから二人の悲鳴が聞こえる。
「何やってんだよお前ら」
呆れた様に聞くカイン。
「わ、分かった。先生が言ってたあれやってみよう」
「あの、なんだっけ?、見て考えて行動する、みたいな奴」
アリエルが言った。
「あぁ、じゃあ、俺が先に歩くからお前ら見てろよ」
サッサと何事もなく歩くカイン。
「何が違うの?」
アリエルが二人に聞く。
「あ、ああ〜。右足から歩いた」
「一人で歩いてる」
「一瞬振り向いた」
「カインくんは男!」
ユナは見たことをそのまま口にした。
「歩ける条件が男って、お前らダメじゃん」
「じゃあ、一人ずつ並んで右足から歩いて途中で振り向くを全部やって見る?」
アリエルが提案を出す。
カイン、ユナ、アリエルの順に右足から踏み出して歩き出し、途中で止まって振り向いた。
何も起こらない。
「正解みたいだな。でも振り向くのいるか?意味ない気がするぞ」
カインが疑問を口にする。
「どのタイミングで振り向けばいいか分かんないしね」
ユナがカインの意見に乗る。
「じゃあ、振り向くの無しで歩いてみる?」
アリエルの言う通りに歩いて見ても何も起こらない。
「何だ、普通に行けるじゃん」
ユナが言った。
「これで先に進めるな」
「でも、何かさっきより教室遠くない?」
カインが歩き出そうと前を向いた時に後ろからユナが言った。
「イヤ明らかに動いただろ廊下。見えねぇよ」
「それに何か、真ん中に黒いのいない?」
ユナの言葉にアリエルが目を凝らして視る。
「いる。魔力を感じる。たぶん、魔物」
「魔物?!」
アリエルの言葉に二人は身構える。
カインは木剣を構え、ユナは鞄から魔導書を取り出してカインの横に並ぶ。
「慎重に行こうぜ」
「うん、いつ襲われてもいい様に準備だけしといて」
「アリエルは私達の後ろにいて」
ユナは黒い点から視線を外さないままアリエルに前に出ないように制止する。
三人はゆっくりと進み、やがて黒い点の正体が見えてくる。
「あれ、シャドウウルフだ・・・・」
影を纏う狼は三人に気づくと立ち上がり、顔を歪ませながらゆっくりと近づいてくる。
そして三人まで後数歩の所で歩みを止めると、その大きな体を包む影で辺り一面を覆い尽くして姿を隠した。
狼の息遣いが頭上から聞こえ、言いしれない恐怖が三人を飲み込もうとしている。
「っう、・・・・」
カインが怖気づき、アリエルはギュッと目を閉じ体が強ばっている。
ユナが声を震わせて叫ぶ。
「雷撃!」
反応が無い。
「ら、雷撃!」
やはり反応がない。
「な、何で魔法が使えないの?!」
狼の怒りが増したのがカインにも分かった。
「ガアアアッ!」
「ゃアアア!」
熱い咆哮にアリエルは頭を抱えてしゃがみ込み、ユナは床にへたり込む。
カインは木剣を硬く握りしめ、動けないでいる。
(お、落ち着こ、私は一度戦闘経験があるし、何度もリズレッドの訓練も受けてる・・・・)
(アリエルは怯えてるし、カインも動けない。どうしよう)
泣きそうになるユナ。
心臓が痛い。汗が吹き出して息が浅くなり、視界が狭くなって頭がフラフラする。
でも、何か聞こえる。
『キャン、キャン』
(小さい犬の様な鳴き声・・・・)
(子どもがいる?)
(・・・・)
「あ、あ〜。もしかして、私達子どもを奪いに来たと思われてる?」
ユナの呟きにアリエルが顔を上げる。
「お、俺達、別に子ども奪おうなんて思ってないぞぉ」
カインが震える声で狼に告げるが、狼は聞く耳を持たない。
「カイン、剣を捨てて。ユナも、本鞄に入れて。悪気は無いって見せよう」
アリエルがユナの肩に手を置き、二人に武器を収める様に言う。
ユナはすぐに魔導書を鞄にしまい、カインは狼に見せるように剣を床に置いた。
影が心なしか薄くなった気がする。
「か、壁が見える」
「刺激しない様に、壁伝いにゆっくり歩いて行こ」
三人はゆっくりと壁際に移動し、狼に背を向けて壁伝いに歩き出す。
狼の視線が三人を追う。
影を抜けると三人は走り出す。
それを見た狼は影を収め、我が子に乳をやる為に床に伏せた。
カインは目の前の教室の扉に手をかけて思いきり引いた。
気づいたら三人は机に突伏して眠っていた。
こんにちは、ボアと申します。
もし「面白い!」と思われたら
感想などいただけると参考になりますので
嬉しいです。
よろしくお願いします。




